祖母傾国定公園
祖母山〜傾山〜大崩山一帯の山岳地帯の他、岩戸や三田井地区の神話史跡群、高千穂峡などを含みます。昭和29年頃から関係市町村と共に厚生省(現在は環境省の管轄)に陳情が行われ、国有林を管理する営林署との調整を経て、昭和40年に指定されました。
祖母山系
高度では大分県九重山群に及びませんが、主峰・祖母山(1756.4m)から東方の傾山(1602.0m)との間の主稜線に1500〜1700m級の山々を連ねた、西日本屈指の山岳地帯です。主稜線は宮崎・大分県境を成します.。
かつて森林開発と人工造林が盛んに行われた祖母山系ですが、今も標高1000〜1200mくらいから上は、ほとんど自然状態のままブナなどの落葉広葉樹の森が拡がっており、林床にはスズ竹が密生しています。このような広大な自然林は九州では希少な自然環境で、多くの野生生物たちを育み、また九州中部の広い地域を潤す水源となっています。この森の多くは国有林、祖母傾国定公園などの形で保護されています。また1000m前後から下に残る雑木林は常緑の照葉樹を中心とした森となり、多様な森林環境を形成しています。「ツクシアケボノツツジ・ツガ群落」、「サワグルミ群落(ミヤマムグラ・サワグルミ群集)」、「ツクシドウダン群落(オオヤマレンゲ・ツクシドウダン群集)」、「祖母・傾山系の冷温帯性夏緑広葉樹林域群落」、「祖母・傾・大崩山山系の山地風衝低木群落」、「五ヶ所高原のススキ草原」はそれぞれ保護上重要な希少植生とされています(「宮崎県版レッドデータブック」2000年より)。
岩戸馬生木から見た古祖母山
常光寺の滝 河内熊野鳴瀧神社上宮滝 岩戸上永の内布城熊野鳴瀧神社上宮滝
諸塚山域
高千穂町南部の山域で諸塚村・五ヶ瀬町との境界をなし、その尾根は九州脊梁山地の最北部へと続いています。稜線付近を林道「六峰街道」が通じています。
六峰街道のブナ林
高千穂峡
高千穂峡は五ヶ瀬川本流が太古噴出した阿蘇火砕流を侵食したもので、見事な柱状節理の断崖が高さ50〜100m、長さ約2kmにわたって連なり、初夏の新緑、秋の紅葉が色を添えます。淵ヶ瀬には今も神秘的な伝説が息づいています。「五箇瀬川峡谷」として昭和9年、国の名勝天然記念物に指定されました。
阿蘇は、今までに約30万年前と約18万年前と約12万年前と約9万円前の4回に大きな噴火をしており、それぞれ噴出物をAso-1,Aso-2,Aso-3,Aso-4と呼び分けています。これれのうち、高千穂峡で目にすることができるのは、約12万年前の阿蘇3火砕流と約9万年前の阿蘇4火砕流です。学者によっても境界線をどこにするのか?諸説あるようです。足立富男さんによると柱状節理を阿蘇3、バナナ状節理を阿蘇4とする説を言われていますが、柱状節理もバナナ状節理も阿蘇3で、阿蘇3と阿蘇4の境目は玉垂れの滝のある広くなった部分とする説が有力視されています。
【参考文献】足立富男「写真で見る宮崎県の地学ガイド」宮日文化情報センター2010年1月1日
エンタブラチャ構造の形成に関する仮説(松田清孝ほか,2011)、宮崎県総合博物館研究紀要
第32輯
宮崎県の地質フィールドガイド(宮崎地質研究会編,2013)、コロナ社
ここまでわかった宮崎の大地(青山尚友、2010)、鉱脈社
阿蘇3と阿蘇4の境がはっきりわかる場所は、国見大橋の下に下る「尾橋峡谷」にありますが、足元が悪いので、一般の観光客はお勧めできません。
真名井の滝…景勝地・高千穂峡(五ヶ瀬川の峡谷)一番人気の見所。規模は小さいですが、切り立った高千穂峡に流れ込む荘厳な一筋の滝です。平成2年には「日本の滝100選」に選定。高千穂峡の駐車場と遊歩道をご利用ください。貸しボートあり。(ただし落石の危険のあるオーバーハングした部分への立ち入りが禁止となり、ボートのこげる範囲は限定されています。)
地質・鉱物・化石
高千穂町は岩石資料の宝庫。日本国内で産出される鉱物の約5分の1の種類が祖母・傾・大崩山系で産出されます。また、岩戸地区にはフズリナなどの化石を産出する事で知られる地層があります。
鍾乳洞
いずれも規模は小さいですが、高千穂町内にはいくつかの鍾乳洞があります。
【参考文献】
高千穂町・高千穂町観光協会・日本ケイビング協会「第15回日本ケイビング大会資料〜高千穂の洞穴」、1974年8月2日
宮崎県高等学校教育研究会理科・地学部会編「宮崎県地学のガイド」コロナ社、1979年
柘の滝鍾乳洞の看板 柘の滝鍾乳洞
太鼓岩鍾乳洞 三ツ合鍾乳洞
岩戸地区の石灰岩層とフズリナ化石
高千穂町岩戸地区には、古生代二畳紀(ペルム紀)〜中生代三畳紀の石灰岩層が露出しているところがあります。これらは「岩戸層」「三田井層」「上村層」と名付けられ、日本屈指の地質学・古生物学の調査地層として知られています。
東大の磯崎教授、太田氏らは、ここから得たフズリナ化石の調査から、2億5千万年程前に起こったとされる「2段階の生物大絶滅」が、全地球レベルで生じたものであった事を世界で初めて証明しました。
(詳しい資料)
岩戸層と三田井層の境界(大字岩戸字上村) 大字下野字聖川のフズリナ化石
フズリナ化石を調査する東京大学大学院磯崎行雄教授と太田彩乃さん 黒仁田のメガロドンの化石と発見者の甲斐惣太君兄弟
気象現象
雲海
山間部の盆地である高千穂の町は、秋になると夜間に発生した川霧に覆い尽くされることがあります。早朝、これを高台から見下ろすと一面の雲の海のように見えるため、「雲海」と呼ばれています。晴れて放射冷却によって冷え込んだ夜に多く発生します。特に見晴らしの良い国見ヶ丘からの雲海と日の出の眺望は「天孫降臨」の神話を彷彿とさせ、未明から多くの来客で賑わいます。
国見ヶ丘の雲海 国見ヶ丘から阿蘇を見たところ(雲海は少なめ)
祖母山の風穴と天然氷
祖母山の北谷登山口から「風穴コース」の急登を登ると、山腹の風穴に辿り着きます。古来「白煙を吐く大蛇が棲む」と恐れられていたそうですが、明治時代になり、洞内に天然の氷があることがわかりました。冬の間に発達した氷が、洞内の低温により夏頃まで残ります。なぜ洞内がこれほど低温に保たれるのか、詳しい事はわかっていません。洞口でも冷気を感じる事が出来ます。危険ですので、専用の装備のない人は入洞しないでください。(登山のページ)(祖母山に伝わる大蛇の伝説)
里山と水田
里に近い山々は、杉を中心とした人工造林となっているところが多く、また椎茸栽培用のほた木を得るためのクヌギ林も各所に見られます。また各種竹林も多く、竹製品の需要が減った今日も、タケノコや伝統行事に欠かせないタケ・ササ類を供給しています。天香山やくしふる峰などは宗教的な聖域として守られており、やはり祭事に用いられるサカキ(榊)の産地にもなっています。
高千穂で稲作が普及するのは明治時代以降のことで、農地開拓と灌漑事業によって水田が拡がりました。これら水田は人工的なものではありますが、湿地性の植物や昆虫たちの絶好の住処となり、里山と共に農村特有の自然環境を形成しました。山里であるため各地に棚田が見られますが、特に大字岩戸字大平の中ノ谷地区と大字三田井字栃木地区の棚田は「棚田100選」に選ばれました。
三田井東公民館から見た塩市方面の棚田 岩戸大平中ノ谷の棚田(雪景色)
植物
巨樹・古木・保護樹木
歴史のある山深い里であり古い寺社も多い高千穂町では、巨樹・古木が多く現存しています。(詳しい資料)
【参考文献】 池田隆範 「みやざき巨樹の道」 鉱脈社、2001
その他の野生植物
山野草を採らないで!それは犯罪です |
希少な山野草については、残念ながらここで詳しくご紹介する事が出来ません。なぜならこれらの植物が絶滅にひんしている理由の一つが、悪質な山野草マニアや取引業者による違法な採取・乱獲であり、生育地などを公開すればさらなる乱獲につながりかねないからです。 希少な野生植物は、文化財保護法(天然記念物)、自然公園法、種の保存法、県や町の条例などによって保護されています。またそれ以外の植物でも、地権者・土地管理者に無断で生育地に侵入し採集すれば、当然違法行為に当たり処罰の対象になります。言うまでもない事ですが、あなたの土地・あなたの庭に生えているもの以外は、あなたのものではありません。 何より、これら希少な植物は多くの場合、特異な生育環境を必要とします。あなたが持ち帰っても、容易に育てられるものではありません。自然の中で、ありのままの姿を楽しんでください。また、違法な植物採取を見つけたら、最寄りの警察に通報してください。 |
フクジュソウ(県指定天然記念物)
クマガイソウ キンラン
ヒメユリ
昆虫
高山の森、里山、草原、清流、水田、洞窟と多様な環境に恵まれている高千穂町では、それぞれに適応した多種多様な昆虫たちが生息しています。しかし、環境の変化と共に環境の維持は難しくなりつつあり、生息環境の悪化や喪失によって絶滅のおそれのある昆虫たちもいます。
岩戸五ヶ村遺跡の発掘現場にいたノコギリクワガタ(♂)
高千穂の方言ではクワガタをハサミムシと言い、メスをババと言う。
両生・は虫類
ニホンヤモリ
野鳥
キジ ♂
野生動物
ニホンカモシカ
ウシ科。学名 Capricornis crispus。高千穂町を含む九州中南部の方言では「ニク」と呼ばれます。日本の固有種で、本州・四国・九州にのみ生息します。九州では宮崎・大分・熊本県に現存し、特に宮崎・大分県境の祖母傾山系は九州最大の産地と思われます。祖母傾山系のニホンカモシカは、1960年ごろから九州大学の小野勇一氏らにより本格的に調査されました(小野勇一 「ニホンカモシカがたどった道」 中公新書、2000年)。大分・熊本・宮崎各県教委がまとめた1996年の調査報告書では九州全域の推定個体数が約2000頭とされています。一般に急峻な地形を好む山の動物とされますが、希に林道などに姿を現わす事もあります。かつては猟の対象とされていましたが、昭和9年に県の天然記念物、昭和30年(1955)には国の特別天然記念物に指定され、捕殺も禁止されました。日本固有種の大型野生動物として貴重であることに加え、日本列島の形成の歴史などについて知る手掛かりとなります。
ヤマネ
ヤマネ科。学名 Glirulus japonicus。大きさは小さなネズミほどで、「ネズミとリスの中間」のような姿をした、かわいらしい動物です。かつて「珍獣」として紹介されたことから、非常に珍しい動物と思われがちですが、実際には比較的広く分布しています。祖母山系にも以前から生息していたようですが、あまり一般には知られていなかったようです。近年では平成13年秋に高千穂町内での生息が再確認されました。小さく丸まって仮死状態で冬眠する独特の習性などから昭和50年(1975)、国の天然記念物に指定されました。九州での分布を含め、まだその生態には未知の部分が多いようです。
↑2006年3月1日、大字下野字聖川の佐藤剛氏宅茶の間にやまねが発見され、11日に届けられました。
県文化財課へ連絡の後、山へ放す予定でした。
高千穂の3月の気象はまだ寒いのでしばらく佐藤家で保護されていましたが、専門家の鑑定の結果、「体重が12.2gしかなく、平均的な体重の18gには軽すぎるということと山へ返すに当たって大きな檻での飼育が望ましい」との判断から宮崎市立フェニックス自然動物園へ移されることになり、3月24日に預けました。残念ながら、2006年4月4日に宮崎市立フェニックス自然動物園にて死亡しました。
冬眠前にたくさん食べて冬眠によってエネルギー消費を最低限に抑えるという省エネの動物なので、十分に冬眠していないとかなり体力に無理があったのかもしれません。
やまねは、ねずみやりすと同じく、しっぽが取れやすい構造になっているそうで、鳥などに襲われた際、本体が生き延びる為にしっぽを切り離すそうです。ちなみにとかげのように再生はしないそうです。
↑2007年12月14日、日之影町岩井川畑野の工事現場の金属パイプに紛れ込み、日之影町七折のIリースで資材を下ろす作業中に発見保護され、高千穂町体育指導員をされているF所長からの電話があり、緒方学芸員が実物を見て「やまね」であることを確認。県文化財課に連絡を取ったところ、「元気ならば、元の山に放し、病気ならば動物園に持ってきて欲しい。」とのこと。写真を撮ろうとすると元気に逃げ回っていたため、日之影町教育委員会の文化財担当のK補佐に放獣をお願いしました。
ツキノワグマ
クマ科。学名 Ursus thibetanus japonicus。江戸時代から昭和初期にかけて祖母傾山系などで猟師がクマを捕獲した記録が残っています。しかし、九州産ツキノワグマの存在が動物学界に認知されたのは昭和になってからで、大分県の登山家・加藤数功氏が行った地道な調査(昭和初期)によるものでした。(詳しい資料へ)
戦後は捕獲の報告も途絶え「絶滅」が囁かれるようになりました。しかし一方、クマ目撃談は絶えること無く、今日でも度々物議をかもしています。昭和62年(1987)にお隣の大分県緒方町で1頭が捕殺され、話題になりましたが、他地域のクマの人為導入を疑う声もあり、結論は出ていません。平成11年(1999)、高千穂町田井本で発見された足跡は、専門家によって「クマ」と断定されました。
平成12年(2000)、宮崎県は「宮崎県版レッドデータブック」においてツキノワグマを「絶滅」とし、同様の判断をした熊本県(1998)、大分県(2001)と合わせ「九州産のツキノワグマは絶滅した」というのが公的見解となりました。しかし、クマの探索活動は登山家や自然愛好家等の手によって今も続けられています。
アナグマ
アナグマ(穴熊、Meles meles)は、イタチ科アナグマ属に分類されるイタチ。本種のみでアナグマ属を形成する。別名ムジナ。
↑2007年10月26日、向山北小学校の岩永智佐子教諭撮影。撮影場所は、向山北小学校入口。メスで出産途中に近くで工事が始まり、移動しているところと思われる。
キュウシュウジカ
シカ科。日本に生息するシカは「ニホンジカ」(学名 Cervus nippon)という一種類のシカですが、四国・九州に生息するのはその中でも「キュウシュウジカ」(C.
n. nippon)とよばれるタイプで、北海道のエゾシカ(C. n. yesoensis)や本州のホンシュウジカ(C.
n. centralis)に比べると小型です。町内にも多く生息し、林道で遭遇することも珍しくありません。古くから狩猟の対象とされ、今日でも冬季オスのみ捕殺が認められています。
イノシシ
イノシシ科。学名 Sus scrofa leucomystax。関東から九州にかけて広く分布する動物で、しばしば単に「シシ」と呼ばれます。冬季の狩猟ではシカと共に主要な獲物となっていますが、同時に田畑の作物を荒らす厄介者でもあります。高千穂神社の「猪掛祭」では、丸のまま1頭のイノシシが荒神鬼八に備えられ、祭事の後は参列者にシシ鍋が振舞われます(「猪掛祭」については祭りと伝統芸能のページ参照)
ニホンザル
オナガザル科。学名 Macaca fuscata。学名のMacaca は近縁の猿の総称「マカク類」を意味しますが、その語源は日本語の「(お尻が)真っ赤っか」であるとも言われています。高千穂町では近年目撃される事が少なくなりましたが、川沿いの森を中心に現存しているようです。高千穂には大字三田井に「猿渡」、大字上岩戸に「大猿渡」、大字岩戸に「猿岳」という地名があります。
この他、タヌキ、キツネ、イタチ、テン、ノウサギ、ムササビ(俗称「モマ」)、ネズミ類、モグラ類、コウモリ類などの野生ほ乳類が生息しています。一説によるとニホンリスもかつて生息したようですが(「高千穂町史」1973年)、現在は情報がありません。
2009.06.11 総合運動公園内にて 2009.06.11まだ子供です。元の場所に放しました。
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