「蹴転(けーころ)(=ツチグリの幼菌)を食べる」
(2006年7月13日現在)


1、はじめに

 高千穂町大字五ヶ所では、「ツチグリ」というキノコの幼菌を「けーころ」と呼んでおり、半分に切って中身が白いものを味噌汁などに入れて食べていたそうです。半分に切るのは、@「黒くなっていないか?」を確認するためとA味噌汁を吸って熱くなっているので火傷を防止するため等の理由があるそうです。生える時期は、梅雨に入ってからの最初の晴れ間の頃で、「とうもろこし」の「一番中(いちばんなか)」という作業の頃に出てくるそうです。「一番中」とは、「除草と土寄せを兼ねて肥料が逃げないように根元にかぶせる作業。」で草がたくさん茂る年には、2回行うので「二番中(にばんなか)」という作業をしていたそうです。二番中の頃には、一番中以上にかなり採れるそうです。
 「けーころ」とは、蹴って転がすので漢字に直すと「蹴転」となるものと思われますが、インターネットでは、「蹴転」で「けころ」と読み、江戸時代の最下層の娼婦・女郎がお客を蹴って転ばせてまでもして店に入れていたことから「江戸時代の最下層の娼婦・女郎」を意味するということも書かれていました。スポーツ新聞の記者のみなさん、本文での蹴転は、「江戸時代の最下層の娼婦・女郎」の意味ではありませんので…念のため。(笑)

 宮崎県総合博物館の植物学の学芸員の黒木秀一さんによると「鹿児島県霧島市ではツチグリの幼生を『ころべ』と呼んで食用にしています。」とのことでした。


2、文献やインターネットでの「ツチグリ」

 文・斉藤政美、語り・椎葉クニ子「おばあさんの植物図鑑」1995年には、P210に「つちぐり」を『かきのぼや』と言って、胞子を皮膚病の薬にしていたと書かれています。幼菌の利用ではなく、開いてしまってからの胞子の利用例のようです。

 ちなみに「ツチグリ」はキノコの「ツチグリ」とバラ科の「ツチグリ」とがあります。

 ここで話題とする「ツチグリ」はキノコの「ツチグリ」です。「けーころ」を原田欣三著「西臼杵方言考」に載っていないか?調べてみましたが、載っていませんでした。原田欣三著「西臼杵方言考」を元にした高千穂町コミュニティセンターHPの高千穂の方言では、「つちぼ」で、「松露(しょうろ)」のことと載せています。
http://www.komisen.net/dialect4.htm

 みのもんたさんが司会の日本テレビ系「おもいっきりテレビ」で紹介された「福島県平田村」では、「松露」を「まんまいだんご」と言っており、油味噌煮が紹介されています。
http://www.ntv.co.jp/omo-tv/05/0306/0612.html

 「松露(しょうろ)」と「ツチグリ」は別の種類のキノコです。

 「ツチグリ」は「味噌汁」「バター炒め」「味御飯」が美味しいそうです。http://plaza.rakuten.co.jp/myfav0r1te/diary/200507250000/

 こちらでは、「味噌汁」の「ツチグリ」が新感覚の味と紹介されています。http://hosinowa.mdn.ne.jp/rika_room/mokuji_0410.htm

 こちらでは、「ふ」ような「ハンペン」のような食感とのことです。
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/koso/k_ujina1.htm

 「きのこの神様のきのこ物語(95)」というHPでは、「バター炒め」「てんぷら」「焼き飯」「甘辛煮」「ピクルス」「マリネ」にすると紹介されています。
http://www.geocities.jp/kinokonakamisama/kinoko095.html

 福島県林業研究センターの92ページにも及ぶ報告書の35〜36ページには、「ツチグリ」の栽培の研究が進められています。弱酸性の未熟土に発生することがわかったそうです。http://www.pref.fukushima.jp/ringyoukenkyuu/kenhou/no.37.gyohou.pdf

 福島の医療系のメールマガジンのHPでは、「ツチグリ」が「マメダンゴ」という方言で紹介してあります。http://takawa.fc2web.com/malmag8TOP.htm

 「《山から里から》岩手の幸を味わってみよう−1《ウマー》」というページにも「まめだんご」と「まんまいだんご」という方言が紹介されていました。
http://tohoku.machi.to/bbs/read.pl?BBS=touhoku&KEY=1118526098

東南アジアのタイでは塩付けツチグリの缶詰が売られているようです。
http://paknamstore.shop-pro.jp/?pid=1040396

スープや炒め物、ゲェーン(ミャンマー風カレー)等に幅広く使われていると紹介されています。http://www.thaimeal.net/cookphwwn.html

3、実験民俗学「ツチグリ幼菌を食べる」

2006年6月8日木曜日朝7時30分に五ヶ所の甲斐英明さんから電話が入りました。『武田計助さん宅のしゃくなげ園で「けーころ」が生えた』との内容でした。早速、地元の新聞記者の人達に連絡したところ、D社が来たいとのことであったので8時30分に待ち合わせて出かけました。天気は昼から雨なので降る前に収穫しなくてはと急ぎました。
 武田計助さん宅のしゃくなげ園の比較的日当たりの良さそうな土手の斜面に去年のツチグリの星形に開いた残骸が落ちており、その付近を手で掘ってみると、幼生がコロコロと見つかりました。
   
大小30個ほどあり、重さを量ると150グラムありました。早速、奥さんの武田照代さんに味噌汁を作ってもらうことになりました。@まず、土を洗います。A根があるところや皮でも黒っぽい箇所は庖丁で削り取ります。この時、汁が若干ネバネバしていて、匂いを嗅いでみたところ、スーッとするさわやかな匂いがしました。B半分に切って断面が白色であることを確認します。C鍋に水をいれ、半分に切ったツチグリも入れ沸騰させます。D煮立ったら、味噌を加え、一煮立ちさせ、火をとめて味噌汁がツチグリに染み込むのを待ってできあがりです。
 
 

 
 早速食べてみました。ツチグリ自体の味は無く、匂いも味噌汁に消されてしませんでした。しかし、独特の食感は未体験なものでした。中心部は麩に似ていますが、皮の部分がコリコリと奈良漬けの瓜の皮の様な食感でした。D社のS記者も「表現の仕様に困る食感だ」と言っていました。異なる食感の二重構造は、文字に表現し難いものでした。
 役場に帰って、ツチグリの開いた残骸と写真を持って、あちこちの人に聞いてみました。星形に開いたものは胞子を出して忍者ごっこをしたことがあるという人が大勢いましたが、幼菌を食べた人はいませんでした。五ヶ所出身の人でも60歳以上の人の3人に1人位が食べたことがあるとのことでした。山で開いた残骸を見て忍者ごっこを懐かしむ人は多くても、幼菌を探して食べたという人はほとんどいない様です。独特の歯ごたえ感を知る人も珍しくなっていると思います。郷土の食文化の一つとして継承されて行って欲しいと思います。

4、おわりに

実験考古学でも、ドングリクッキーとか赤米とかはメジャーですが、野生きのこについては毒きのこのリスクがあるため、まだまだ研究が進んでいないと思われます。
 体験型のグリーン・ツーリズムが注目されている昨今、「野生きのこ」についてもメニュー開発のニーズが出て来るものと思われます。
 ツチグリの幼菌の旬は、梅雨の中の晴れ間頃ですが、タイ料理用の缶詰も使えば、年を通しての郷土料理の新たなメニュー開発として、注目されると思います。
 ツチグリ自体は、日本中かなり広い範囲で分布していますが、インターネットで検索する限りでは、高千穂と熊本と鹿児島県霧島市と福島県などに集中して幼生を食用としているようです。
 現在、サッカーのワールドカップのジーコ・ジャパンに熱い期待がかかっていますが、「蹴る」つながりで、蹴転(けーころ)と呼ばれるツチグリ幼菌でグリーンツーリズム等の観光振興の起爆剤にならないかと期待が高まっています。とはいっても、乱獲で絶滅危惧にならないような保護増殖も同時に必要なのですが…。
 「面白そうだ」と思われたキノコ会社の方々等の取り組みに期待したいと思います。

(以上、2006年6月9日)


 けーころの会(「ツチグリ幼菌を食べる会」2006年7月13日

 五ヶ所地区の武田計助さんを中心に、ツチグリ幼菌がどのあたりで採れるのか?などを調査し、保護増殖を研究するとともに、美味しい食べ方を研究する会が開催されました。
 宮崎総合博物館学芸員の黒木秀一さんも、生えている状態を写真に撮りたいということで来町されました。
 梅雨が長かったのでなかなかツチグリ幼菌の情報が集まりませんでしたが、熊本県境に近いTさんの畑の奥の崖面に生えているとの情報があり、行ってきました。なんと阿蘇4火砕流の灰石の表面にコケが生えてぼろぼろしている土にツチグリ幼菌が生えていました。アカホヤ火山灰以外でも温度や湿度の状況が良ければ生えるようです。
←灰石の中に生えている状態です。
←30個ほどありましたが、1個を除いて29個は黒色でした。あまり大きなものは黒くなっている可能性が高いです。小さなものが白い可能性が高いと思いました。この白色は焼いてみたところ、栗に似た食感でした。
←仕方がないので、タイ産の缶詰で味噌汁を作ってみました。若干パリパリ感は落ちますが、キノコとは思えないコリコリ感は十分に楽しめます。
←右側は、黒い部分を取って焼いて味噌をつけたものです。左側はタイ産の缶詰に切り目を入れて焼いているところです。香ばしくて美味しかったです。焼く行為自体も[まだか?まだか?]と楽しめます。表面が白くなったら食べ頃です。

 ちなみに黒くなった状態は、どんな味なのか?実験してみました。最初に黒木秀一さんが食べてみられて「なるほど。緒方さんも食べたら?」と言われたので、私も食べてみました。口に入れてみたところ苦い味が広がって美味しくありませんでした。辞典に「不食」とか「食用に向かない」と書かれていますが、「にがいから」と理由を書いて欲しいものだ!と思いました。バラエティ番組の×ゲームの青汁ジュース以上にまずい代物でした。

 最後に、五ヶ所高原のヒメユリの写真を載せておきます。

 


けーころの会、平成20年度「ツチグリ幼菌を食べる会」(2008年6月17日)

 五ヶ所の武田計助さんから「けーころが生えたよ。」との電話があった。このところ高千穂町は梅雨入りで、昨日6月16日は高千穂峡の鬼の力石の上方の崖が崩れて遊歩道が土砂に埋もれる被害が出たほどである。(現在急ピッチで復旧を進めているところです。)この日は霧雨でしたが午後から曇りになったので、高千穂町内の新聞社の記者さんにも連絡し、ケーコロの取材に行ってきました。

 
 
 
今回の料理は、砂糖醤油煮です。ご飯のお供に最適では?と思いました。
タイ産の缶詰は最近のインフレの影響で570円が630円になっていました。
6月21日の夕刊デイリーと6月25日の宮崎日日新聞で記事が掲載されました。
6月27日、宮崎日日新聞のSさんから「高鍋町のTさんから高鍋町では『ケコロナバと言って食べていた。』との情報がありました」と電話がありました。



表紙に戻る  インターネット展示室の目次へ  


ページ上の文・画像の著作権は特に断りがない限り、高千穂町教育委員会に帰属します。無断複製を禁じます。(2006年6月9日) Takachiho Board of Education © 2002, All Right Reserved.