(資料紹介)高千穂岩戸神楽保存会編「高千穂岩戸神楽」昭和13年


以下に紹介する資料は、絶版となっている神楽関係の書籍で神楽の舞い方が書かれている珍しい資料です。
神楽は師匠さんの口頭伝承による指導で伝えられるため、実際に現在行われている舞いとは内容が異なる記述もありますが、どちらが正解とか間違いとかいうものではありませんことをお断りしておきます。
なお、実際は縦書きのものを横書きにしたため前後左右の表記は各自読み替えて考えてください。

デジカメの写真は、大字三田井神殿の佐藤實太郎さんのご遺族が所有されていた実物を写真に撮影させていただきました。
「太刀神添」は「弓刃添」と書かれているようです。P2の七五三縄も七五三より多く描かれていますが、実際はどうであったのか?知りたいところです。
また、最後に保存会役員の名前が列記されていますが、現在行われている神楽の系統(流派)と異なる状態も見られます。昭和13年段階で本を作り、名前を載せたことは歴史的事実ですが、その後のさまざまな理由からそれぞれの地区で現在の形になったものと思われます。


(表紙)
高千穂岩戸神樂
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(巻頭写真)
★前列右ヨリ 助祭員 花田伊三郎 社掌 佐藤實太郎
社司 大賀七郎 顧問 佐藤滿雄 副會長 田崎宇權
★前二段 田尻平一郎 評議員 藤高コ一 會長 戸市三郎
支部長 甲斐市作 助祭員 田崎太藏 顧問 押方豊光
★三段 會長 坂本長市 〃 興梠金長 〃 田崎春義
評議員 興梠喜代三郎
★四段 佐藤喜美藏 後藤傳藏 會員 田部喜助 〃
坂本源次 〃 興梠正晴 評議員 戸竹四郎 今永隆觀
評議員 今村兩四郎
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(巻頭写真)
向ッテ右ヨリ四皇子峯・(中央)高天原・(左)くし觸ノ峯・神都高千穂町ノ一部

(岩戸ノ内)伊勢神楽
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(巻頭写真)
高千穂峡ノ一部
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(中表紙)
高千穂岩戸神樂
皇紀2598年
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(P1)
神樂の紀元
抑々高千穂の岩戸神樂は、遠津神代に天照皇大神の天ノ窟戸に神隠ましし時、八百萬の神等窟戸の前に集ひ
奏せられしわざを始とし皇孫の命、日向の高千穂の峯に天下りましまして善きを取立、惡しきを除きて日の
本を治め給ひし時、諸の神等の身振り手振りを代代傳へて神事に奏し奉るもの也。
一、注連のかけ方
東を元として約六尺の高さにかけること中の三段に「注連ばしり」をかけ其の末端に「七五三の幣」をかけ
其の次に「みつで」次に(かけながし)をかくること、そして四方の隅に四段の幣をかくること。
以上【注連】は二間四方とす。
注意 紙を切る時は青、赤、黄、白、黒、の順に重ねて切るものとす。
幣のかけ方は黄を除きて東青、南赤、西白、北黒、の順とす。(注連バシリ)東西赤、南北青とす。
樂手四人 衣裳 素袍 風折 (烏帽子をかふる)
樂手順 大太鼓 小太鼓 笛 手調子
外注連 外注連は内注連に相對して、外に立て榊にてかこひ、七五三及び、御幣にて装飾なし祭壇を設
く。 外注連には萬世の神のまします所なりといふ。
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(P2)
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                 赤幣       青幣
四段黒                                         四段青
                                               (
                                               内
                                               注
                                               連
                                               )
                                               注
                                               連
      
四                                           四段赤


ニ            | | | | | 連 | 注 | | | |
準            四 カ ミ 注 ――――三―――― 注 ミ カ
ズ            方 ケ ツ 連   注 段 注   連 ツ ケ
             白 ナ デ の   連 幣 連   の デ ナ
               ガ   幣   バ   バ   幣   ガ
               シ       シ   シ       シ
                       リ   リ
                    ┌─────────┐外
                    │         │注
                    └─────────┘連
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(P3)
一、彦舞
猿田彦命 (一人舞)
衣裳 千早、素袍、面を掛くる
持物 鈴 御幣
トンカラカラカンカラカラカンの太鼓にて、御神屋の終りの次歌の前に舞出し、島(斗枡代用)三廻り廻り
島の上にて上りて、三廻り廻り四方を拝みて、島を下り又三度廻りて舞ひ込む。
一、太伊殿
くぐぬちの命、かぐつちの命、かなやまひめの命、みづはやめの命、(四人舞)
(衣裳)素袍に烏帽子をかぶる、(持物)鈴と扇
彦舞の直後に四人揃ふて西の注連際に至り、拝して四隅に座し鈴と扇(ひらきて)を八字形に置き、拝して
御神屋の次歌を俟つ、その前に袖を調べ拝して鈴を少し右後に引き扇を左手に取り上げ、目八分にて右手を
上より要の少し上に添へ、左手は扇の紙の中程を支へ其儘左手に畳み込む、其時は左少しく高く、右少しく
低く、右手離して要を外に持ち、右手に鈴を取り上げ扇を右膝の上に立て右腕の中程を其上に置き同時に右
膝を前に少し進め次歌に合はせて鈴を振り鳴らす(次歌の太鼓は六調子)次歌終れば太鼓は下し舞手は膝を元
に戻し、鈴と扇を前に八の字におき拝して鈴と扇を又取り上げ太鼓の打ち替へを俟つ(太鼓の調子トントコ
トロムコトントコトロムコトントントロムコトン)にて左膝を立て扇手は左膝頭の上におき(トロブコトロ
ブコトン)にて鈴を一振り(トンカコカッカコトンカコカッカコ)毎に二振り振りて立ち上り、五方の扇方
(トンカコカッカコトンカコカッカコ)にて立ち上ると同時に左足に右足を揃え左足を前左に踏み出し、右
足を又左足に揃えつぶしを少し屈め伸ばして右足を前右に揃え、つぶしを屈め順次歌に合はせて舞歌の終り
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(P4)
の(やあ)にては小足に廻り半身に右向扇を出し、右足を後に引くと同時に扇の要を内に向け少し押さえて
扇の要を外に向け替え左廻り一廻りして中央に向き、足を揃えて鈴、扇共臀を内に同時につぶしを屈め伸ば
して、右足を半歩位前に踵を立てて出し、其の足を元に戻して左足を右足の如くなし、太鼓に合せて左足を前
左に踏出すと同時に扇の要を外になし以下五方の立上り後の舞と同じ五方の歌(さよなかにあやの風こそ吹
き来り神風なればしなやかに吹けやあ)(東方の木コ神にも今ぞ拝みを参らするやあ)(南方の火コ神にも今
ぞ拝みを参らするやあ)(西方の金コ神にも今ぞ拝みを参らするやあ)(北方の水コ神にも中央の土コ神にも
以下同じ)
右の歌の作方はさよ中の歌半句にて一回歌終りて一回東西南北中央の歌は一句毎に、前の舞を舞ふ但し中央
の歌の時は左廻り輪舞して前に同じ、終りて左袖の下の端を右手にて恰好よく引き拝して袖を離す、其の時
太鼓を下ろす六調子にて四方割の構をなし右足をちょっと蹴出し左足を向に踏み出す右足を後しもくに踏み
左廻り半回転後向となり、又順に右廻りして歌を歌ひながら輪舞し、歌終りて中央の歌にて中央をなし四方割
にかかる四方割終れば終れば中央をなして「八雲立つ」の歌に舞納め扇を開く、開き扇の舞も前四方割に同じ四方
割終れば一列四方割をなし終れば舞下しの歌を歌ひ其の歌終りて「八雲立つ」の歌にて中央に向き掬ひ上げ
して左廻りに廻りて中央に向き左に一足踏み寄り、又右に一歩踏み寄り、右足を後ろに引き突き上げをして左
廻り一回して中央に向き又突き上げをして、左に廻ると同時に西の注連際に至り一列に座し拝して終る。
一、の神颪し
かむろきの尊 をんしをの尊 忍穂耳の尊(三人舞)
衣裳及び持物は太伊殿と同じ
五方の舞及び四方割始めは太伊殿に同じ、四方割先鼻神前を割りたる時に(歌らんじらんじょうにまいらす
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(P5)
るや)にて舞方も太鼓も五方の舞と同じく右に押廻して、右廻りして、左向となり(歌らんじらんじょうに
今ぞおうがみにまいらするや)にて左に押廻し左廻りし少し拝して太鼓六調子にて始めの如く舞ふ、先鼻北
に行き南を割り終りて先鼻唱教唱ふ(別に録す)其時は先鼻はかっこうよく神前に至り左足を神前に右足後
にふみ開き鈴の尻を上げ、少しふりて右足を左足のそばにやり左足先を少し開き拝し右足を後に引き扇を神
前に水平に出し鈴は腰のあたりに先を付け半身にて唱ふ、後舞は其後に左膝を立て座し其上に左ひじをのせ
鈴は右膝の上に持つ先鼻の合圖にて立上り先鼻の如く構へ唱教を共に唱え、終り右足を少し後に引き鈴を上
げ左廻りして互に内に向き左袖を引き拝して太鼓の打替六調子にて脇假名を舞ふ鈴の尻を外に目八分に扇を
腰當りに持ち腰を割り右押し廻しにて歌の終る迄舞ひ歌終れば鈴を少し左前に右足も共にふみ出し左足を後に
丁にふみ、右足を前にふみ、扇もかっこうよく上げ右廻り一回して外向きとなり左足内にふみ出し、扇要を
外にして内に出し鈴頭を腰のあたりに付け次の歌にて左に舞廻り歌終れば外向き横舞をなす、横舞はひだり
足前に出し右足を後に引き右廻り一人宛廻りてひだりに三歩行き又右に三歩もどり扇を腰の當りに下げ鈴を
内に目八分に其次の歌にて舞廻る、同じく横舞もす、其次各一歌詞毎に前の如く舞ふ終りの八雲立つの歌終
りたる時は左足を前に出し、右足を後に引き鈴扇は其儘太鼓下し左押廻しに七歩にて右一廻りして外向とな
り右に七歩押廻り左廻り一回して左に七歩押廻し左半身となり入足をなす、入足作法は右足を左足の少し左
前にふみ其時は扇を右ひじの下に持ち行き鈴を左ひじの間の所まで持ち行き足及び手共二度くりかえすそれ
より鈴を上げ右に押廻り七歩にて左に七歩又右に七歩行き右廻りして、入足をなし左押し横に六歩仝右に六
歩左に六歩にて入足をなし右廻りして入足をなすこと三度の終りには、扇を半開きにして拝す、入足を終り
それより開扇の舞は太伊殿に同じ、但し一方十方の時三つ足をふみそれは神前割りたる時は神前に南に割り
たる時は南に三歩半身にて進み、右足を前左にふみ、太鼓に合せて鈴をふり、又左に前通りふみて鈴をふり
右一廻りして元の所にもどりて輪舞して、八雲立つの歌にて太伊殿の如く舞終る。
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(P6)
一、鎮守
をやつ姫尊 つまづ姫の尊(二人舞)
衣裳 素袍
持物 扇 鈴
二人揃ふて西のしめ際に行き立拝して神庭に入り神前に向ひ、着座して再拝拍子一拝す
太鼓より歌詞(注連引けば)にて袖を調べ拝をなし、鈴を右に少し引き、扇をとり上げ目八合の所にて扇を畳
み鈴も扇も八字形に前に置き、拝して太鼓よりの歌(サンヤソモソモ)にて左手に扇の頭を握り其の手にて
鈴の頭を握り少しく左に向ひて立ち上り正面に向ひ扇を左手に開き、右手に鈴を持ち(掌の上むく様に格好
良く持ち)左足より神前に進みて、足を揃へて、内廻りをなして元の位置に戻り南北より中央に進み左膝を
立てて座し同時閉扇し左手に鈴と扇の要を握り左袖の七分の所を右手に持ち太鼓よりの歌を待つ(立てや禰
宜)の歌にて立ち上り右に鈴を取り左足をふみ出し左手を差出し扇の頭を持ち(要は水平よりも少し上る様に)鈴
は腰につけ半身に構へ各一詞にてつき上げをなし、元に直り太鼓の次歌を待つ(二歌詞あり)
歌終れば神前に向き進みて左膝立てをし、左袖をまき向直ると同時に立上りて西に進み、右廻りして神前に
行き前同様の所作をなす(これ三回)三回終り西に進む時(歌嬉しさに)の歌にて西に行き各一回なし、押
し廻しに廻り先鼻南にて扇出をなして太鼓の打ち変へを待つ。
太鼓(トロムコトントノトン)にて先鼻西の北方に進み後の者は其尾について、揃ふて神前四方割扇を出し右
足を後方に引き腰を割り左足よりふみ出して、三歩目(イモフミと云ふ)に左足を左に開き踵を立てて少しふ
み出し元に戻し右も同様にし、又左足を同様にし、右足より後しざりして扇出しの手二回なし、左袖をまき
左一回して左膝立てて座し左一回と同時に立上り輪舞して北より南に向ひて四方割をなす、割終れば輪舞し
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(P7)
て北南より扇出しをして左袖をまき、左に一回して袖をとき、右に一回し左手を出す、左袖をまき、先鼻西
より向ひ合ひ後も同じ手にて、先鼻と向ひ合ひ共に右足を引き先鼻は南、後は北に進み右廻りして互いに扇
を出す、扇出しの手をくり返し東西より向き合ひ右足より引きて左半身に南北に進み折敷をなす(折敷の手=
左袖を外巻きすると同時に左膝を立てて座し、右袖を内巻きすると同時に膝を右に立て直し左膝頭にて左廻
り一回すると同時に両袖をとき立ち上りこれを二回して両袖を内巻きに左廻一回して両袖を外巻にして右廻
り一回袖をとき又両袖を内巻きして左廻り一回)そのまま西東の中央にふみ出して向ひ合ひ右足を引きて先
鼻南方に行き鈴を高く扇少し下げ目に左廻り一回して袖をとき輪舞して折敷し、東西より中央にふみ出し向
ひ合ひ左足を引きて先鼻南方に行き扇を高く鈴を少し下げ目に右廻りして袖をとき輪舞して折敷し、互に中
央にふみ出し袖をとく、その時太鼓を、おろし次は開き扇の手にて太鼓の打変に應じて舞始め、四方割をな
し扇出のしの手を舞ひ折敷して先鼻西より互に向き合ひ、右足を引きて先鼻南に廻り、行きて扇を出し先鼻
東の方を通りて、北西の隅に半身に進み折敷し本回は先鼻東より向き合ひ左足を引きて、南に東を通りて進
み一廻りして袖をとき、搖り上げにかかる。(搖り上げ搖り下し御鈴の聲に神そめて、人の為めなり、人の為
めなり)の歌を唱へながら鈴を前に目八分に扇は後ろ腰のあたりに持ちて半身に二三歩進みて、鈴を扇のあた
りに持ち行き少し押へ氣味にして、又元に戻しそれを繰り返し四方行ふ、輪舞の太鼓にて舞ひ、先鼻北に至
りて扇出しの手を舞ひ又南に至りて扇出の手をなし輪舞して先鼻北より左膝立てて座し、互に中央に進み右
膝を立て、はな南に至りて向き直り、左膝を立てて座し又互に中央に進みて右膝を立て、はな北に至りて向
き直り折敷二回して中央にふみ出し、そでをとく、その時太鼓をおろし鈴を前目八分に扇は後にして押し廻
り西に一列になり神前に向き直り三歩進みて扇を前に出し扇を打振りながら後しざりして座し拝して終る。
鎮守には鼓手よりねぎ歌(左記の通り)あり
一、そもそもしんしほうけんなるないし所と申し奉るしんしとは大六天王ま王のおきてがたとはきこゑたり
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(P8)
一、そもそもほうけんと申し奉るは出雲國簸の川上にて八岐の大蛇を退治し給ふ御中に一つの劔あり
  これを大神宮へ献げ奉るむら雲の寳劔即これなり。
一、そもそも八咫の御鏡と申し奉るは伊勢の國五十鈴川のほとりにて天照皇大神宮とあがめ奉る八咫の御鏡
  これなり。
一、雨の降る高天の原を通り来て清瀬原で逢うぞ嬉しき。
一、神樂の立や禰宜そこ立ち給へ(鼓手之を唱ふ)(以下舞手之を唱ふ)立てばこそ禰宜が袖に御幣とどまる。
一、杉登
志ひ根津彦命 うさつ彦命 たけみかづちの命 (二人舞 入鬼神)
畳み扇、開き扇も鎮守と同じ、畳み扇終れば太鼓下し「ドロ拍子」にて鈴は臀を向ふにして上げ、扇は要
を向上にして鈴と高さを揃へて持ち、両手の間は約二尺二三寸にして、鈴の臀及、扇の要は頭より少しく高
く持ち、先鼻は西に向き、後は神前に向き、そのまま左一歩横飛びし、一廻りして神前に向き互に神前
を割る、其の他の作方は前仝断割り方は東西南北の順に依る、中央は先鼻北より、後は南より割り納めて横
飛を二回なし互に中央に一歩踏み出し、体を沈めて袖を解く「イモフミ」の四方割に掛る四方共、後舞は先
鼻の後に行き、中央は北南より五方共半身にて割に進み又後戻りして又進み、廻りて元の位置に返り「トロ
ムコトントロムコトン」の太鼓に合せて足を少し屈め左袖を巻き左膝を立てて座し左足を一歩踏み出し其のまま一廻
りして袖を解く、その時鬼神舞出づ、鬼神は樂屋より舞出す注連口にて左右左に三回轉して神庭に入りて杖
を神庭の中央より上座につく、杖を引き廻して一廻轉して四方割に入る、割終れば三回轉して左膝を立て杖
を左に持ちて座す、其時扇子を右手に開き折敷して立ち上り左右左に廻りて神前に杖をつき杖を引いて廻し
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(P9) 
て又三回轉して神前に杖をつく、この時歌(うれしさに我はここにて舞ひ遊ぶ)を歌ひ折敷して西に杖をつ
き引いて廻して左右左に廻りて、注連口まで立ち戻り左一回して扇の方より半身に神庭に進み、扇を押さへ
杖を廻して杖の方より半身に注連口に行きそこで、左右左に廻りて扇の方を神庭に半身に杖の端を扇と一緒
に持ち足踏みして其のまま神庭に行き杖をつき杖を左手にて廻はし、左右左に廻りて西に杖をつき杖を引き
杖を廻はして扇の方へ一廻りして折敷をなす、その時の歌(立ち帰り立ち戻り後の都の不思議さよ、かがそ
川の流れたえせん)終りて左右左に廻り神前につえをつき、杖を引いて廻はして左右左に廻りて舞ひ納む、
是より開き扇にかかる後鎮守と同じ。
一、地固
みちのたんの尊 事代主尊 いたけるの尊 玉やの尊(四人舞)
衣装 素袍 鉢巻
持物 腰に劔 鈴に榊葉
西の注連際に揃ふて拝して座し、榊葉を前八字形に置き袖を調べて再拝二拍手一拝して太鼓の打変に依り左
膝を立て太鼓に合せて鈴を三度振りて立ち上り五方の舞をなす。五方終れば六調子にて四方割をなす、中央
の歌の時は左中央をなす、終れば舞颪の歌にて輪舞なし八雲立つの歌にて中央に向き鈴、扇をすくひ上げ左
一廻りして中央に向き左に一歩右に一歩扇をつき上げて左一廻りして扇を出し左一廻りして終り劔を腰より
ぬき鞘のまま松葉先きの方を左手に持ち、刃を内に向け左肩にささえ六調子の太鼓にて舞ひ、西と東より割
り北南より割る輪舞して中央をなし(但左中央)「舞ひ颪す八雲立つ」の歌にて舞納め素袍をぬいでそれ
を畳み左手に持ち鈴を右に持ちて四方割をなす(この時中央は本中央)終れば襷の手の舞にて四方割をなす
(今回は左中央)これ終れば襷をかけ素手にて脇假名の舞を舞ふ(この時は劔は腰に差し居ること)入足をし
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(P10)
て終りに四隅に構へて腰を割り、反り身にて手先を振り廻はし、左手を差し出し、右手は腰に一歩にて順に
他の位置に行き前同断の所作をなし、先鼻北隅に至る時、その所作にて手を鳴らし同時に各劔をぬきて座し
拍手して拝す、鈴を取り劔を左手に持ちて左膝を立て六調子の太鼓にて立ち上ると同時に、左一廻りして四
方割を舞ふ、先鼻神前を割りたる時はランジランジョウヲをなし、次に南を割り一方十方にして舞ひ納む。
(この割方は柴付きの割)次は劔の先を下げ扇を中央に一本置きその扇に、松葉先を向けて舞ひ、歌詞四五
にて舞ひ終る、西の注連際に一列に行き拝して寳渡をなす。(寳渡の歌は別に記す)
一、幣神添
ひこさしまの大神 あまつちほひの尊 (二人舞)
鎮守全部の舞を舞ひ(但し折敷の時歌あり)終れば素袍の手にかかる、素袍の手は無手にて鼻北後は南に左
は腰に右手を差し出し其儘一廻りして元の位置に返り左手を出して右手を腰に支え、其儘一廻りして元の位
置に戻り、又右手を出して左手を腰に支え、其儘一廻りして左手を出し右手腰に支えて太鼓より歌(天よりも
素袍給ひて)を俟つ舞手より「我来たよ」の歌を唱えつつ左押し廻し一廻りして太鼓より唱ふる(素襖の主と
は)の後につけて「我ぞこそゆる」を唱えつつ右押廻はしに廻り歌終ると同時に少しく飛び上り、互に西に
行き其儘左手を少し高く上げて神前に進み右廻りに廻りて西に行き互に南に向き右手を少し上げ左手は腰に
支え神前に行き左廻りして西に帰り神前に向き直り左の素襖の袖水平より少し上る位にはね、同時に左膝を
立てて座し立上り右手を同様にして右膝を立てて座し両袖を内巻に巻き左足を一歩踏み出し其まま一廻りし
て袖を解き押し廻して東注連際に行き前仝断西を割り、南北は各南北より割りて割り終れば素襖をぬぎそれ
を両手に持ちて四方割をなしその時は立ちたる儘腰を割り左手より前に打ち込み、右手も同じく右廻はりし
て押廻はしその割終れば素襖は置き、腰の幣を抜き取り右手に持ち互いに南北より右押廻はしに廻りて自分の
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(P11)
位置にて幣を左に取りて鼓手の歌を俟つ、鼓手の歌は「天よりも御幣給ひて」なり、之を受けて直ちに舞手
に於て「我来たよ」を唱えつつ左に押し廻はし以下は前記素襖の手に同じ、之を終れば鈴を取り幣を左に持
ちて太鼓「トロムコトントノトン」にて輪舞し互に西の注連際に行き正面に向きて幣を出し右足を引き左足
より神前に進みて左足の踵を立て左に踏み出し元に戻して右足を同様にし、又左足を同様にし元に戻して左
足より蹴出し後退りして今一回前同断をなして終り、太鼓を下して輪舞押廻はして西に行き幣を差出し右足
を引き其儘左一回して神前に向ひて座し幣を左右左に振り拝して終る。
一、武知
橘の命 礎とをり姫の命 (二人舞)
衣裳 素襖 鉢巻(赤)
杖を腰に差しトロムコトントロムコトントロムコトンで楽屋より舞ひ出す三回廻って南北より中央に向き合ひ足を揃へて扇
と鈴を一緒に掬ひ上げる氣持をして座す(自分の座先き鼻は北後は南)其の時太鼓を下す、扇をひろげ鈴と
共に八字形に前に置きて拝す、太鼓より歌ひ上げる時袖を調べ扇を閉ぢ拝して又八字形に前に置き太鼓より
「立てや禰宜其處立ち給へ」の歌が上がれば其の歌を互に受けて「立てばこそ禰宜の袂にや……御幣とどまる」
其の歌を歌ひ扇を右膝の上に立て鈴を其の上にのせかけ歌の終りに扇を稍右膝向ふに立てて立上り向ひて扇
を出し右足を後ろに引き、鈴を後に引き腰のあたりに納むると同時に身を沈めて右足の足先を少し上げ構へる
先き鼻歌を上げて扇突き上げをして袖を巻き、右足を前左に踏み出し合手の後にて鈴を少し高く上げ扇を後
にして「振り立て御鈴の聲を」の歌を上げ鈴を鳴らし元の位置に帰へり共に「聞く時は禰宜こそ我をや……
取らば両手に」の歌を歌ひ左足を少し踏み出し扇を少し押さへて又元の位置に帰へる、後の者は歌を上げ扇
を突き上げて又先き鼻の様に式をする、終ると太鼓よりの歌を待つ、太鼓よりの歌下の句をつぐ、歌二句あ
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(P12)

り、終ると突き上をなし袖を巻き左廻りにて半分向き扇を捨てまねをし、袖をとき(此れを三回行ふ)其の儘
追ひ廻しに「嬉しさに吾は此にて舞ひ遊ぶ……」の時一回廻りて自分の座より中央に互に扇を出し自分の
座にて一回廻り同時に袖をとき追ひ廻しに向座にて扇を出し一回廻りて太鼓の打ち替へを待つ。
トロムコトントノトロムコトントロムコトントノトロムコトントロムコトントノトロムコトンの太鼓にて舞ひ先鼻後も西の七五三のきはに行きて神前を割る
(割作法)神前に向ひ扇を出し腰を割りて右足を引き、右足を出して神前に一足にて進み同時に扇と鈴を肩
の高さに持ち左の足を少し左の方に踏み出して立て又、太鼓に合せて左足引き、右足を出して立て又右を引
き左足を出して立て又引き太鼓に合せて其の儘足を少し蹴出して後すざりに本の西の七五三きはに帰へり、
肩を出し右足を引き同時に腰を割る。此の作法は二回扇を出し袖巻き左廻り一回して袖をとき右廻り一回し
て左膝立て座し立ち上ると同時に左に一回して輪舞し東より西を割る、割り方は前同断、南北は先鼻北より
後南より割り方は前同断、割り終れば輪舞して自分の座より互に扇を出し左袖を巻き左廻り一廻りして袖をと
き、右の方へ一回して扇を出し、左袖を巻き、其の儘左足を少しふみ出し右足を向ふにふみ出し中央にて向
き合ひ又元に戻りて追ひ廻りにて向ふの座にて袖をとき、扇を出し、左廻りに袖を巻きて一回廻りて袖をと
き右廻り一回して扇を出し又中央にて向き合ひ右足を元に引きて半身に自分の座に帰りて折敷をす(折敷の
作法=左の袖を外より巻き左膝を立てて座し右袖を内より巻き右膝を立てその儘左膝頭にて左一廻りと同時に
左右の袖を解くこれを今一回繰り返す。鼻より歌を出し後の者はこれにつけて歌ふ、歌方は一鎖一鎖歌うも
のとす。最後の一鎖は一緒に歌うものとす。
左の袖を外より巻き、立ち上り右の袖を内より巻き、右廻り一回して袖を解き左右の袖外より巻き一廻りし
て袖を解き左右の袖内より巻き左廻り一回して、左足を少し出し、右足を向ふにふみ出して東西より中央に
て向き合ひ元に帰りて逆廻りして向ふの座に行き、左一回して袖を解く、扇出しをして自分の座に行き又折
敷す(これも歌あり)作法は前同様なれ共、向き合ひを鼻、東より後西より向き合ひ元に戻りて右廻りに向
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P13)

ふの座に行き右一回して袖を解き扇出しの舞をして自分の座に帰り又、折敷す(歌なし)折敷終れば互に向
き合ひて少しかがんで一歩前に進みて袖をとく、その時太鼓颪す、扇を開けて舞方の用意をなす。
トロムコトントノトロムコトントノの太鼓にて四方割をなす、割り方は前同断なれば共扇を後に捨つるまねにて割る。
割り終ればトロムコトントロムコトンの太鼓にて左足より左右とも少し蹴出しトロムコトロムコの太鼓にて右
足より三歩前に進み行き扇を前に上げ、右の方に廻ると共に元の位置に帰り左の方に向き鈴を扇の所に押へ
持ち行き正面に向ひて左膝を立てて座し左に一廻りすると共に立ち上がり輪舞して東の注連際に行き西を割る
南北は各南北よりすりがひに割り輪舞して自分の座にて扇は上に向け、鈴は横目八分に持ち右廻りして向き
合ひ右足一歩對手の右にふみ出し、足を揃へて又一歩向ふにふみ出し右一廻りして向き合ひ又對手の右の方
に一歩ふみ出し足を揃へ又一歩向ふにふみ出し自分の座に帰り、右一廻りして折敷す(歌あり)折敷終れば
自分の座にて扇を腰なみにさげ手掌を上に向け鈴は頭なみに上げ左足を中央に踏み出し腰を割り其の儘三歩
して向ふの座に行き右一回して袖をとく(後の者は二回す)輪舞ひして自分の座に帰り鈴扇を目八分目に持
ち前折敷の前舞ひと同じくして折敷し鈴を腰の邊りに持ち扇は頭なみに上げ三歩にて向ふの座に進み右廻り
して袖をとく、同時に歌「ゆり上げるゆり降す鈴の御聲に神そめて人の為めなり人の為めなり」にてゆり上
をなす、ゆり上の作法は左足一歩引き扇を後に捨てまね、鈴を目八分に手掌を内に向け半身に構へ歌と同時
に三歩進み扇を上に向け鈴を上より扇の要に左半身に持ち押へ又元の姿勢にかへり「神そめて」の歌にて前
同断又「人の為なり人の為なり」にてゆり上を終る。
輪舞して折敷の前の舞を舞ひ膝立をなす、膝立の作法、扇を出し左膝を立てて座し立ち上がり中央にて鈴を出
し右膝を立て立ち上りて向ふの座に行き、むき直りて扇を出し左膝を立てて座し、立ち上りて鈴を出し右膝
を立てて中央に座し立ち上りて自分の座にかへり、むき直りて扇を出し左膝を立ててざし鳥渡立ち上りて折
敷をす、この度は歌なし、折敷終りて中央に一歩を進みむき合ひにて袖をとき、左足を引き、扇を後に捨て
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P14)
まねをして鈴を前目八分に持ち追ひ廻しに一廻りして舞ひ終る、同時に太鼓をおろす、鈴と扇を神前に置き素
襖の手に移る、素襖の手は格好良く輪廻りして自分の座より互に左袖を出し左足をふみだし半身に構へ太鼓
より「天よりも素襖を賜ひて」の歌に「吾れ来たよ」歌ひて左廻りに追ひ廻し元の座に帰りて右袖を出し右
足をふみ出し半身に構へ太鼓よりの「素襖の主とは」の歌に「吾をこそゆる」と歌ひながら追ひ廻はし、歌の終
りに足を揃へて鳥渡とび上り、互に西の注連際に揃ひ右廻りして南にむき右袖を差し出して神前を割り始む
其時は左袖は腰につけ其まま神前に進み左廻りして西の注連際に戻り北むきになり左袖を高く上げ右袖を腰
につけ神前に進み右へ廻り西の注連際にかへり右袖を高く上げ左を腰につけ神前に進み行き、右袖をつき出
して腰を割り、そのまま一足にて西の注連際に飛び退り左袖を打ちまくまねして左膝を立てて座し又右膝を
立て同時に右袖を外より巻くまねをして座し鳥渡立ち上り両袖を内より巻き座して左膝頭にて左廻りに一回
して立ち上り袖を解く、輪舞にて神前に行き西を割り、南北に進みて互に南北を割り、割り方は前に同じこ
れにて一手終る、素袍の前を外し両の端を両手に持ち、右追ひ廻はしに一廻りして自分の座に行き互に左手
をつき出し半身に構へ太鼓よりの歌「天よりも天の羽衣」を舞手は「ぬぎすてて」と歌ふと同時に素襖をぬ
ぎ両袖を両手に握り左へ追ひ廻し自分の座に行き右手をつき出し半身にかまへ太鼓よりの歌(羽衣ぬしとは
)に舞手は(吾をこそゆる)と歌ひながら右おひ廻はしに西の注連際に行き神前を割る、割り方は前同様
なれ共割終りに座せずに、左足をふみ出し左袖を前に打ち込み腰を割る、又右足をふみ出し同じ手にて腰
を割りに左廻り一回すると同時に素袍を前より両肩にかけ右廻りしておひ廻しに神前に行き、西を割る、南北
とも素袍の手に準ずこれにて一手終る。
襷の手 襷を調べ両端を両手に持ち半身にて右廻りにおひ廻して自分の座に行き左を出して半身にかまへ、
その時は前の方の手の掌を上に向け、右は後に手の掌は下に向け太鼓よりの歌「天よりも襷賜ひて」に舞手
は(われ来たよ)とつぎ、左おひ廻しに一廻りして自分のざに行き右手を出して半身にかまへ太鼓よりの歌
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P15)
「襷のぬしとは」に舞手は「吾れをこそゆる」と歌ひながら右追ひ廻しに廻り歌の終りに鳥渡飛び上り西の
しめ際に行き神前を割る、割方は素襖の手に同じなれ共割終りに左足を出して座し又立ち上り右足を出して
座しそのまま中腰にて右廻り一回して座すと同時に左足を出し立ち上りて
今一度繰返し立ち上り右横に一足
又左に一足飛んで右廻り半廻りして追ひ廻しに神前に行き、西を割る、南北とも前同断四方割終りて襷をか
ける。
武知の手 武知の中央を右手にたてに逆に持ち自分の座より追廻しに一廻りして自分の座に帰り、武知を左
手に持ちかへ左半身に構へ太鼓よりの歌「天よりも武知を賜ひて」に舞手は「吾来たよ」と歌ひて素襖の手
に同じ四方割をなす、四方割の作法は武知の中央を右手に持ち少しふりまはしながら神前に進み左廻りして
西に帰り武知を左に持ち直し又神前に進み右廻りして西に帰り武知を右手に持ち直し又神前に進み武知左右
に動かして三四歩退歩して腰を割り、反りて武知を左右に入れ戻しこれ数回神前に一歩飛び又退歩して前同
断武知の端を左手に取りかへ右膝をつきて座し、鳥渡立ち上りて左膝をつき右手に武知を取りかへ右膝をつ
きて座し左手に取りかへて座し立ち上るとき右手に取り右廻りして追ひ廻しに神前に行き西を割る、南北と
も同じ、終わりて太鼓の打ち替へ、トロブコトントノトロブコトントロブコトントノトロブコトンにて八方割にかかる。
八方割 右に鈴を持ち、左手に鞭を持ち、輪舞して先鼻西より舞出したる隅より割り始む、其時は自分の行
く手前の隅にて、トロブコトントノトンにて腰を割り一足にて自分の場所に飛び左半廻りして互にするがい向
合ひて向の隅に行き其のまま帰りてハレワイサノサの掛聲にて向ふの隅に飛び左半廻りして又するかい向ふ
聲のスミに至りて又帰り掛聲にて向のスミにとび半廻りして聲するがい行戻りして掛聲にて西の注連際にとび東
注連際に行き、其の時太鼓下し突き上三度して座して拝して終る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P16)
一、山森(大山祇命)
青龍王尊 赤龍王尊 白龍王尊 黒龍王尊 黄龍王尊 (五人舞)
(襷を掛け鉢巻をなす)
持ち物 鈴と榊葉
揃ひて神庭の西の注連際に出て拝して座し鈴榊葉を八の字形に置き袖調をして鈴榊葉を取り上げ太鼓トント
コトロムコトントコトロムコトントントコトロムコトロムトンにて左膝を立て半身に構へ太鼓に合はせて鈴を三度振り立上り以下地
固めの鼻の手に同じ鼻の終りて先鼻唱教(唱義と唱ふる所あり)を唱ふ(この時の持物先鼻弓二番太刀以
下この順に持つ)唱教を唱ふる時は弓を取りて神前に進み二番以下は一再斎に西の注連際に左膝を立てて座す
先鼻は鈴を上げ少しく打振りて稍南の方に向き、左足の踵を立て少しく腰を屈めて、拝して右足を後に引き
左足を少しく神前に踏出して踵を立て鈴は右後に腰の當りに鈴の頭をつけ左手は水平に出し半身唱教を唱
ふ先鼻の合圖に依りて二番以下立上り半身に構え共に唱教をとなえて左廻りに一回して左足の踵を立て拝して
太鼓六調子を俟つ、六調子にて一歌詞にて輪舞し中央の歌にて左中央をなし「四方念じて」の歌にて四方
割に掛る「御幣立つ」の歌にて鼻と二番は西に進み、三番以下は東に行き東西を割り始む、半身にて掛り歌
を歌ひながら後に戻り、一歌詞にて位置を替え始めの如くするがひ舞をなし、歌終れば左廻りする中に元の
位置に帰り「ふけば行く」の歌にて南北に進み南北を割る、割り終れば一歌詞に輪舞なし中央をして一列四
方割に掛る一列四方割も前の割と同じ、終れば一歌詞にて輪舞し中央の歌にて中央をなし(舞卸す)の歌に
て輪舞し(八雲立つ)の歌にて鼻の手の終りの如く舞ひ終る、其時先鼻は北神前に二番は其西に三四番は南
の方に座して構える、其時山の神鹿を引き連れて舞出る其太鼓は(トントコトントコトントントン)山の神
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P17)
は片襷を掛け面を被り杖の端を右手に持ち向ふを輪に振り廻はして舞出で注連際にて杖を背中に負ひ太鼓三
調子を舞ひ、杖を元に戻して神庭に舞出し三廻り廻りて杖を脊に負ひ太鼓三調子を舞ふて又元に戻し輪舞し
て鹿に乗り一廻りし杖を又脊に負ひ三調子にて元にて元に戻し三回輪舞して鹿より下り鹿を離す、其時四方の舞
手よりそれを打つ、其時太鼓を下す。
山の神の舞上げ 鹿を放つ時に引綱を切り左手に手繰り持ちて杉登りの登りの舞にて四方割をなして舞ひ終
る、其時皆立ち上り西の注連際に一列に並び神前を拝して行儀正しく樂屋に入る。
一、柴引
大力男命 (一人舞)
衣裳 たちつけ 面
太鼓ドロ拍子にて樂屋より舞出す、出たる方に杖を二度押さえ三度目に神庭に出る、二度神前に杖を押さえ
る神前よりはじめて同じ事を四方にする、三度左に右左杖を使ひ榊引にかかる一度引きて又三度杖を使ひ根
元を掘る、又前の如くにて引にかかる、榊を引取りて四方割する、杉登の登の手にて四方割なす、終りて
榊を岩戸の口に植え付け退ひて拝して終る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P18)
一、伊勢神楽
天の小屋根命 (一人舞)
衣裳 素襖を着し烏帽子をかぶり赤の鉢巻をなす、鈴と扇を持ち樂屋よりトンカコカコカンカコカコカンの
太鼓にて舞出し、神庭にて輪舞三廻りして西より神前に進み太鼓降す、座し、再拝二拍手一拝し御幣を左手
高く右手幣柄の尾を持ち少し後退りして御幣を右手左手幣柄尾を持ち左右左に振りて拝し又右左右振りて拝
し又左右左に振りて拝し幣柄尾を左手にもち、鈴を右に取り、幣を向に突き出し、半身になり、膝頭にて左
半廻り、右に半廻り、又左半廻りして立上り右廻りして西に行き神前に進み鈴を向ふに突出し半身になり膝
頭にて右左右半廻りなし左足より立ち上り左一廻りして又西より神前に進み御幣を向ふに突出し始めの如く
して右へ廻りて神前に至り拝して左足を稍左に踏出し踵を立てて押へ太鼓の打替を待つ、太鼓 トントント
ンの太鼓にて鈴、幣共目八分目に持ち右足より太鼓に合せて左右左に退り、神前に三歩進み右足を稍右に踏
出し押さえ又左足より今一度繰り返す、神前に行きて幣を向ふに突き出し半身になりたる時太鼓を降しドロ
拍子にて南の割に掛る以下西北同じ、割終りて中央に至り左右左に廻り神前に進み御幣を向ふにつき出し鈴
を後に半身に構え唱教を唱へる(唱教は別に記す)終り幣の山かもりを立て横かもり左肩に負ひ左足を稍左
に踏み出し踵を立て太鼓の打替を待つ、太鼓トントントンにて後すだりして割り始めおりしきはなさすに順
に四方割をなす終れば神前に進み肩の御幣を束に握り左右左に廻りて少しかもりを立て、横こもりを右肩に
鈴と共に持ち其れにて四方割をなす終れば中央に左右左各一廻りして幣鈴を稍両方に開き沈みて神前に進み
両手を寄せ座し鈴を右肩に置き幣を始めの如く左右左に振り、拝して幣を神前に納め再拝二拍手一拝し鈴と
扇を持ち太鼓トンカコカコカンカコカコカンにて右足より立上り三歩しりぞきて輪舞三廻して樂屋に舞戻る
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P19)
一、大力男乃舞
大力男命(一人舞)
(衣裳)素襖を着し其上ちわやを着て白き面をかぶる
舞ひ出は伊勢神樂に同じ、又幣を取りて拝み方も同じ、其より舞方も伊勢神樂に同じ、但し威勢よく舞ふ事
折敷は神前一方だけにて後は伊勢神樂に同じ、然れ共一通り割り終る毎に神前に進み北に向き腰を割り両肘
を張りて左足より御幣、鈴と共に力入れて踏み又右足にて踏み耳をかたむけて聞く様をなす又左足より踏み
終ればまと足(踏様)を踏み左右左各一廻りして神前に進み南向きして腰を割り其れよりの舞ひ北向きにての
舞ひ方に同じ其の最終の時に歌「アラキタリヤ大神殿」にて左に向ひて最初の如く足踏手振り共同じ(ナニ
トテイデサセタマワラン)にて南に向きなおり(イデサセタマワランコトナレバ如何に深夜のヤミトテモ戸
取りの御神マシマシテ岩戸ヲ取リテノケサセ給ヘバ其ニ時日月サヨカニ拝マレ給フモノナリヤ)にて舞ひ終
り神前に進みて座し最初の如く拝して幣を納め樂屋に舞ひ戻る。(伊勢神樂に同じ)

一、うずめの命の舞 (一人舞)
衣裳 素襖を着、面を被り笹を右手に持ち扇を開き左手の上にのせ持ち笹を其の上に差し上げ太鼓(トンカラカ
ラカンカラカラカン)にて舞ひ出し神庭にて三回して西の注連際に行き北に向き右足より神前にふみ出し左
足は右足にすりよせ其の足にて三歩進み左足より後に三歩しりぞき又前の通り神前に進みしりぞき此の手に
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P20)
て四方を割り、終りて神前に進み右足を後に引き南向き半身構へ(其の時太鼓おろし)て唱教を唱ふる「榊
とはいつの時日に植えそめて天の岩戸の口と定めし」「岩戸出て西の光のさよやかにしりくれなわのしるし
なるらん」終れば両袖を内より外にまき杉登の登りの手にて四方を割り、終れば袖をとき又元の太鼓に打替
へ御笹をふり、扇をつかひ三回して樂屋に舞ひ入る(舞出しと同じ)

一、戸取の舞 岩戸にて
太力男の命
立附袴に面を被り 太鼓 ドロ拍子
四方割迄柴引と同じく終れば杖にて戸の根をほり、杖をすて、襷を掛け、頭毛を両手にてさばき左右左に体
廻し戸を引開けんと力を入れ二度其れをして中央に二三度体廻りして(歌別に記す)にて向て右の戸より取
て投げ二三度体廻して左の戸を取て投すてる其れより又二三度体廻りして拝して終り

一、舞開き
あめのうずめ命 (一人舞)
衣裳は素襖を着其上にちわやを着面をかぶり舞出しは伊勢と同じ三回して神前に進み座拝し鈴と扇を前に八
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P21)
の字に置き再拝二拍手一拝して扇を取り鈴を其上に重ねて両手で支へ「太鼓トントコトントコトントコトン」で
右足より立上り右足より後に
三歩退き「トントコトントントコトン」の太鼓に合せて右左と蹴出し左足をふみ出し、
「トントコトントコスットコトン」の太鼓にて神前に進みて左足を左にふみ出し、おさえて左足より後に引き前
の通り後にすざり左足より左右に蹴出し、又前の太鼓にて神前に進み右足を右にふみ出し、おさへ又しりぞ
き又進みて左におさへ右足より右廻りして北に行き南を割る、割り方、南西北共同じ割り終れば鈴を右手に
取り扇を左手に持ち輪舞一廻りして西の注連際に行きそのまま半身にて神前に三歩行き右足より三歩退き南に
向き右廻りして北に行き南を割る、西北も同じ終れば扇を使ひ輪舞三廻りして神前に進み鈴扇を置き拝みて日
月の渡しを待ち太鼓(トントントントントントン)に合せて歌(天の戸をおしわけ出る天の戸を)(月と日をもろ手
に持ちて舞ひ遊ぶ)の時日月を両手に受け取り目八分以上に持ち膝頭にて右膝より後に引き又、左を引き右
足にて立ち其間に歌(月こそまされや……よいもてらしゃる)にて立ち上り右廻りして南に行きて折敷其の
時(日向なる逢初川のはたにこそ宿世結びの神はまします)今度は西に行き折敷其の時の歌「日向なる二上
岳のふもとには父が岩屋に子種まします」此の次の歌(今日の氏の御祈祷さをしかの黄金の箱に納めまします
)又神前にて折敷歌(君が代の久しかるべき祈りして今は日月納めまします。

一、住吉
大綿津見の命 上筒男命 中筒男命 底筒男命
衣掌 素襖烏帽子後鉢巻 鈴扇小幣二本宛左腰にさし太鼓トントコトントコトントントンにて樂屋より舞出で
注連際より先舞歌を出す(住吉の岸打波の重ければ松は根ごとにあらわれの松)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P22)
次は(住吉の松に小鳥が巣掛けていかに小鳥が住吉の松)
次は(君が代の久しかるべしためしにはかねてぞ植し住吉の松)
次は(まいおろすなかのやしょうめんまいおろすいまはしょうめんおさめまします)
其間に神庭三廻して先舞北神前の方へ行歌終りに太鼓下し突上して四隅に座し向合鈴、扇前八文字形に置き
太鼓手より(注連引けば此所も高天の原となる、集り給へ萬世の神)にて袖を調べて拝す次に仝(神樂の今日
の氏のごきとうさをしかの黄金の箱に納めまします)其の時舞手はたなごころを向に指にて日月を作り耳の邊
迄上げ歌終れば両手共膝の上に下し次に鼓手(立やねぎ其所立給へ)と出す舞手鈴扇を取る時其歌を継ぎ立
てばこそにて扇を右膝の上に立て其上に鈴をのせかけ歌終りに少し右へ体を向け立上り扇出しをなし鈴を右
後腰に附け右足を後に引き同時に身を沈め左足先を少し上げ右足少しかがめて構へる、其時先舞二人歌を一
句歌ひ終りに突上をして左袖を巻き歌(神樂のふりたつるみすずのこゑ)にて左体廻りして袖をとき又右体
廻りして元の構へになり(歌尻の句は皆共に歌ひ終れば各々左足を向に少し踏出し右足も其後に送り少し身
をしづめ又元の構になる、其より後舞歌と共に先舞如き動作をなし終れば鼓手より歌二句の継歌あり終れば
突上をなし左袖を巻き左半廻、外にて袖をとく是を三度して押廻り元の座に戻り袖をとき左押廻りして元に
戻り扇出しをして体廻りし次の舞の構をなす、太鼓トントントロムコトンにて先舞より住吉の歌二句し輪な
し其時は扇の要を内横に持ち少し宛足に揃へて左は引く、三句目は四方ねんじての歌にて四方割の掛りを
して、先舞は西より、後舞は東より、御幣立つ歌にて四方割上の句にて神前及西に割行歌の切りに太鼓に合
せて二足踏みして、左半身又右半身に元の位置迄後すさりす、其時は鈴扇共かっこうよく上げ下げなす、歌
下の句に前同様の動作をして、吹けば行の歌に、南北に行き前同様南北を割る、次は輪舞歌二句目は舞ひ下
すの歌に終りに先舞は北、後舞は南に舞行、左半身の構をなし鈴扇共少し左に高く右足右に向け右体廻りし
て左中央の舞をなす(左中央は後すざりに歌と共に鈴扇共上げ下げすざり舞)舞下すの歌にて元の座に至り
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P23)
右体廻りして右半身左足を向に踏出し鈴を右に高く上げ扇を其腕下に持行左体廻して順の輪舞を一廻り歌と
共に舞ひ元の座に行く、太鼓トロムコトントノトンにて扇出をして左袖を巻き少し中央に進み向の舞手と扇
要を上に出合せ共に左廻りして元の座にて左半身に扇を下に少し押へ、右より中央に踏出し鈴を出合せ扇左
後腰のほとりにて要を外に持ち、下の句を歌唄ひつつ、右一廻り元の座に戻り、扇出しをなし左袖を巻き左
体廻りし外にて袖をとき右体廻りして扇出をなし左袖を巻き左足より半身にて向の座に行き、其所より歌と
共に前同様の動作をなし終れば半身にて元の自分の座に戻り扇出をなし、左袖を巻き左体廻り袖をとき右廻
りして右膝を折りて下へ附け立上り左膝を下へ附け座したる時太鼓下す、此度はトントノトロムコトントノ
トンの太鼓にて開扇の手、前たたみ扇の手同じ、一列四方割迄なして輪舞し、鎮守の太鼓になりて折敷及び
ゆり上げ、東西より鈴肩上に持ち向に行き前に押へ、向直りて元の座に戻り押へ向直り南北に進み南北よ
り同様にして押廻り南北自分の座にて扇出をし左體廻して左向きに座し腰の幣を左青右赤両手に串の尻を
撮み小指の間にはさみ前同様の舞をなす終れば自分の座にて右膝立てて座し御幣を左に握り右に鈴を持ち鎮
守の太鼓にて右體廻り、立上ると同時に突上して左袖を巻く様をし左體廻し又右に體廻り扇手を出し左袖巻
様をなし中央に進み向舞とも腕を組み左廻りして元の座に戻り左半身にて袖をとき中央に進み向舞の鈴と鈴
とを立に合せ右廻りに一廻し、右半身にて袖を巻き其儘向の座に行き、袖をとき右に打廻りて幣を出し袖を
巻き前の如く中央左右とも廻り自分座に戻り幣を出し左體廻り左半身となる、其時太鼓を下し右押廻りの構
へをして押廻り西注連際に一列に行き、正面に向き、突上三度なし左體廻りして座し鈴を置き御幣を右手に
取左右左に振り拝して終り。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P24)
一、地割
須佐之男命 天の太玉の命 月讀の命 武みかつちの命
神主 天津兒屋根命
此神樂はかぐつちの命の御頼みよりすさのを命舞給ふ
一、荒神は片襷に後に榊を差し、右に扇、左に法王杖を持つ
一、幣挿 素袍 烏帽子 鈴 大幣
一、弓舞 襷を掛け鈴に弓矢
一、太刀舞 仝 鈴 太刀
五神御釜の前に行き、荒神及び神主は御酒を釜荒神に奉り家内安全、諸難除けの祈りをなし荒神は盃を神主に
差し、神主それをかゑし、神主より荒神に差し、荒神神主にかゑす、それより荒神も神主も幣挿弓舞太刀舞
家主夫妻の順に差す皆元にかへりて式終り。それより六調子の太鼓にて舞出る先弓刀幣挿荒神神主の順幣
挿より歌(荒神様のまします道にあやはえてにしきをはへて篤と踏ましゃる)と歌ひ舞手皆連歌次は(神の
道千道百道其仲を仲なる道を神はまします)荒神舞始めは釜の前向立上り扇二舞なし左体廻りして舞出る、
次は(八角の御天の柱しらすして我ひとしらでしるものはなし)と歌ひ次中央の歌其時弓刀するがい舞をす
荒神は打廻りして上座に杖を突き扇其上に持行腰を割り、扇を大きく右上りに引く三度目は顔を右へ向け首
をふり切り杖を引上打廻りして舞行杖を扇の手に取り脊負ひ少し舞行、元に復し舞行く、注連際に又弓刀
、荒神中央の舞、神庭にて三廻りの内に一度中央の舞をなし、三度廻れば舞下す八雲立つの歌にて弓刀幣
挿し突上なして拝して神庭をしりぞく荒神は後にて輪舞して四方割先神前に舞行打廻りして神前に杖をつき
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P25)
扇手二回使ひ三度目には南方に杖を突き同じ舞をし西北と順に同じ、動作をなし輪舞して神前に舞登り打廻
り、神前に杖を突き、腰を割り、扇を二回して杖の頭に持行き舞出中央の舞と同じ動作をなし、杖引上扇二
度使ひ三度目に打廻りして輪舞し南方を割る、次は西方北方共終れば矢筈の所を扇と共に持ち杖の端を持ち
て両上より先の合ふ様に太鼓に合せ打振りつつ舞行き、又神前に舞登り的舞し右足少し後に引き両脇に杖と
矢を突き二舞し右足を其間に踏入跨ぎ打廻る、同時に杖矢共引上げ矢を背負ひ杖の手にて取前にて扇の手に
うつす、此れも四方を割る、終れば矢を杖と共に中央に握り三輪舞し神前に舞登り掬上して終り。
其時俵を出す其れに紙一帖宛敷き其れに腰掛け、杖を突き扇は右膝頭に持つ、其時神主大幣を持ち出て振り
拂ひ俵に腰掛け云教門答あり別に記す、門答終りに荒神は杖と矢を神主に渡して又釜前に至り始の如き式をな
す終り

一、御柴
瓊々杵の命 天の村雲の命 神主 天津穂日の命 (三人舞)
衣裳 柴に乗る間片襷面を附け房に扇 後にちわやを着青幣を左腰に赤幣を右腰に挿し刀を挿す
神主素袍烏帽子大幣に扇
舞手は外注連の前より柴に乗り其れを六調子の太鼓に合せ数人にて上げる、其れに合せて乗手も舞ひ神庭に
て三廻位上げ廻り神前向きに下す、其時支度替して先の合圖にて立上り腰を人の字形に割り六調子太鼓にて
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(P26)
舞ふ、先に扇より始め神前に舞登り、後舞は右体廻り輪舞一廻して西に行き先の掛聲にて柴に跨り神前に舞
行く又
合圖にて打廻して杖を神前に突き腰を割り扇を二度使ひ、杖の前に扇を持行き其れを右高に右へ廻し
引く時体を右に捻り首を振り切る体を元に直し杖を少し引上げ其次に上に上げ杖を廻し扇を使ひ二度此れを
なし打廻り西に舞行打廻りし西に杖を突く此れ神前にての動作と同じ其所にて打廻して神前の方柴中央迄舞
行き打廻して輪舞をなす、其時柴を南北に向け直し北より南を割、北に舞行北を割る其動作は神前及西を
割りたる如く終れば輪舞して西に行神前に舞登り掬上げして柴に腰掛け神主と云教門答あり、別に記す終り

一、御神體
伊弉諾の命 伊弉冊の命 舞出神主 鶺鴒鳥
神主は素袍、烏帽子、大幣に鈴、男神タチツケ袴、面を附け苞挿をにない扇を右手に苞の棒を打ちつつ舞出
る、女神は鈿女舞の如く(太鼓トントコトントコトントコトン)にて先神主樂屋より舞出で神庭にて三廻して樂
屋の方の注連際に舞戻り男神を連れ後すさりに神庭に舞出る一廻りして赤注連際に行き女神を連れ前の如く
舞出で三回輪舞して神主は樂屋へ入る、後にて二神は神前より四方割をなす、神前に舞行き後すさりなし左
体打廻りして北に舞行き南方を割る、次は東に舞行西方其次は北方割終れば輪舞して西注連際に舞行神前其
中央迄舞行互に向合ひ膝頭にて座し神前にあるドブ酒をしぼり御器にて先男神に飲せ女神も飲み又男神に進
め尚男神飲みて酔が廻る、女神片附けて立ち上り同時に男神も立ち上らんとせしも酔の為め足立ず女神其れを起
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(P27)
さんと思ひ輪舞し其所ある杖の端を男神に握らせようやく引き立てる、其時太鼓下したれば男神少し酔もさめ
杖を右手左手に苞を持ち、杉登の割の如く女神も共に割をなす、其割の体廻りの時苞の中のもちを少し宛つ
まみ出して蒔く、四方割終りて神前向き拝して樂屋へ入る終り。

一、沖逢
天の村雲の命 事代主の命 天の種子の命 思兼の命
寳冠附け、鉢巻して後にてくびり、右手に榊、左手に鈴を持ち、西注連際に行き列して神前に向き三歩進み退
き拝して座し、持ち物前八文字に置き、袖を調べ拝して持ち物を取上る、其れより五方の舞、地固めと同じ
五方を終れば先舞唱教を唱ふ、其より小幣を二本宛左手に持ち、六調子の太鼓にて舞ふ、輪舞し、左中央をな
し四方割をなす、此四方割は山森の四方割の如し、次は両手に一本宛、幣中央を根を下向へ持ち、前同様の
舞ひ致し、次は幣すりがひにて両手にて持ち、太鼓ドロ調子にて四方割、一列四方共前同様なし、輪廻りし
て北、南より中央に進み出二人の幣を合せ共に捻じ返し、先舞と三番舞が幣を取り、二番四番は素手n捻いて押
廻り、又南北より前の如く中央にてねじ返し、其時は二番四番が幣を取前の如く押廻り、又南北より中央に
てねじ合ひ、ねじ返し幣を分け、押廻し西注連に列し、突上げ三度なし、拝して終り。

一、八つ鉢
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(P28)
少彦の命
立附袴に面を附、覆面包みをなし襷を掛け、紙角々折たるを十二枚附け向すねに紙二枚宛あて附け、腰に片
杖二本挿し、両腕を胸に組み、(太鼓トコトントントントンカラガッカ)にて樂屋より舞出で注連口にて折敷な
し、左手を上注連の様子を見廻し立直り、右手を上げ注連の様子を見廻し立上る時右腕を先に、左腕後より
組み右体廻りして神庭に舞出で神前向き、体一廻りして両手をとき両手指人指中指を延べ、半身右向きに右
足を左足の向に踏み二歩神前に行きて両手共押へる如くなし、後戻りする時両手を上げ、又前の如く二度く
り返し後戻りしたる時右膝を折りて、臀をかがとに附け、左手を上げてながめ、立直りて左膝を折り座し、
右手を上げてながめ腕を組み、立上り体廻りして北に行き南方を割る、次に西方北方共前の如く割り終りに
中央にて体廻り西向きとなり太鼓割る如く二度なし、又行きて太鼓に東向きに乗り体をそり起上る時杖をぬ
き取両手に房の所を持ち、太鼓の縁を数回打ち又体をそり右手の杖を顔の上にて廻し、次に左の杖も廻し起
上り太鼓より下りる、此度は杖を持ちて前の如く四方割をなし、中央にて逆立をなし、足を左右左になひぽ
どひて延し下して立上る、神庭一回中央に体廻りし前同様太鼓を割る如く二度致して、太鼓に逆立して中央
にてなしたる様にして太鼓より下りたる時太鼓下し、ドロ調子にて杉登り登りの如く四方割をなし、神庭
一廻りして両杖を互々に向へ出し樂屋に舞入る。
太鼓ドロ調子に下したる時左記の歌を唄ふべし
八つ鉢の七つ重ねて打つ時は如何に打人たっとかるらん
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(P29)
一、七貴神
津美波
重事志呂主神 ものいみなの命 天のやうつつの命 たかてる姫の命
やましろ彦の命 わかふつ主の命 かやなるみの命
一、親貴神、立附を挿し襷を掛け、後結目に紙を角々に折り、十二枚結附け、向脛に紙二枚宛附面をかむり
大杖凡長六尺両端と中央に荒神杖の如く幣を附けたる物を持ち、樂屋より太鼓ドロ調子にて舞出で、注連際
にて、神庭に半身に片膝立に座し、杖を神庭に突出し、引すごき後を上に廻し、神座の方へつき出す、又引
此れ三回、立ち上り向に直りて同様になし、立上りて神庭に行き東に向き、足を踏み開き、腰を割り、体をそ
らし、杖中央を両手にて持ち、杖を廻し西に向き直り、同様にし太鼓の傍に杖を立て、立つ其時二番貴神入
り貴神の舞に舞出し四方割をなす、四方割終れば親貴神杖に押のけ、前同様杖を廻して、元の所に立つ、以
下七番迄同様になし、元の所に立てば、此度は七番より舞残りの手舞終れば、親貴神は又杖にて押入れ、前
の如く杖を廻し、又元の所に立つ、以下五神共同様にして、終れば四方に杖を廻して樂屋へ入る終り。

一、弓正護
月弓の命 天の日鷲耳の命
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(P30)
襷を掛け鉢巻両鬢に挟みたれを下げ、左手に弓矢扇榊を持ち、右手に鈴を持ち、六調子の太鼓にて樂屋より
舞出で、注連口より先舞歌「天よりも正護たばねて」と出し、後舞「我来たよー正護の主とは」、連歌「我をこそ云ふ」
二、「天よりも御花たばねて我きたよ御花の主とは」、連歌「我をこそ云ふ」
三、「うれしさに我はここにて舞遊ぶ妻戸も開けて御簾も下さず」
四、「舞下すなかのや正面舞下す今は正面納めまします」
にて西注連際に舞行き正面に半身突き上げ三度なし、弓矢を神前脇に置きしりぞきて座し、鈴扇榊前八文字
に置き拝す、鼓手より歌「注連引けば此所も高天の原となる」の歌を唄ふ、其時舞手は袖を調べて拝す、鼓手より
歌神樂の「立てやねぎ其所立ち給へ」と出す、舞手は「立てばこそ」同時に鈴及び扇を両手に取上げ歌「ねぎが袂に」て右膝上
扇を立て其れに鈴手首をのせ、歌「御幣とどまる」にて右へ少し向き立上り右半身に扇のかなめ内横に差出し、
鈴は頭を後腰につけてかまへ、鼓手より歌上の句を出す、舞手下の句をつぐ歌二句終り、突上三度、三度目
に左半向き鈴を前目八分にたなごごろを内に扇は左後腰のあたりにかなめを後にして押廻り、先北後南より
共に扇を出合ひ左体廻りして左に押廻り元にかへり、右体廻りして右へ押廻り、又元の所に行き右体廻りし
て後の舞構へをなす、太鼓トントコトロムコトントコトロムコにて鈴をふり扇を手首にて廻し輪舞し、元の所に行て向合
ひ共に中央に進み太鼓トントントロムコトンにて鈴扇共掬上げる様にし、右足を踏出し元に戻し左足も同様
にして同時に鈴を前目八分以上掌を内に扇は左後腰に附け右体廻りして向合ひ、前同様掬ひ上げをなし左体
廻り構は扇前目八分鈴右後腰に左体廻りして又掬上をなし、足出して右足前と丁と出し左足後右に引八方割
構へをなす、太鼓六調子にて先舞右足踏出す同時歌、「天よりも御花束ねて」にて後舞の後に舞行き、後舞は其
歌を継ぎ八方を割る、割終りて先東向き後西向きに中央にて互に右足より後に引まと足を踏み少し突上をな
し、左体廻りして先舞より歌を出して輪舞をなす、後舞の歌の切迄に南北自分の座に行き尻の句共に歌終れ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P31)
ば右足少しまと足を踏み右体半廻りして南北横向合ひするがひ舞をし歌の句切にまと足を踏み仝東西に行仝
く舞をし、又歌の切にまと足踏み先東向き後西向き歌終りの句を共に歌ひするがひ舞をなし、終れば中央に
て互に右足より一足後に引く其時太鼓を下しトウンにて右足を少し前に踏み出し又左足を踏み出し又右を出し
元にもどし左向となり扇を左後腰に附け鈴は前自分にたなごころを内に、「天よりも御花束ねて」、唱へて右へ
押廻り南北自分の座にてくるくると右体廻り右半身に扇を前目八分に鈴を右後腰に附け左へ押廻る唱、「我来
たよーみはなの主とは」に又南北自分の座にて左体くるくる廻りし、又右に「我ぞこそ云ふ」にて押廻り自分の座
より扇出しをし左体廻りし正面に向き拝す、(此手は弓矢共唱違へ共舞は同じなり)互に弓を取り後舞西注
連きはに神前に向ひて座し先舞は神前に進み左足を少し引き鈴を上げ神前に拝し右足を引き半身に構へ唱教
を唱ふ、唱教尻の句は後舞も立ち上りて共に唱へ終れば南北自分の座に付き花の手の如く(トントコトロブ
コ)の舞構へをなす舞方は花手と同じ八方割も同じ其次は立弓の手の八方割此れは割の終りに共に西注連き
わに行き正面向き歌と同時に横舞なし歌の切に北に行き又東に行きたる時歌終る、其時先舞は舞下すの歌を
出し其切に南に行き横舞なし尻の句には西に行き歌終る迄横舞し、終れば右足より一足後に引き太鼓下しト
ウンに前の如く足出しなして押廻る(此れ花の手と同じ)次は注連弓此れも立弓の舞と同じ、次は矢の手元
を東に持ち(トントコトロムコ)の舞前と同じ八方割輪舞共同じ、次は矢の中央を握りて仲矢の手此れも同
じ、次は悪矢の手矢の元両指間に挟みくるくると廻しつつ八方割をなす(太鼓はトントコトントコストトノトン
)輪舞終れば、次は六調子違矢左に矢の中央を立に持ち右を矢筈を撮み矢中を左指にて支へ八方割輪舞迄前同
様、終れば其儘西注連ぎわに行き神前に向き左手向上に神前に進み後すざり北に廻り同様にし東より南又西
に廻り神前に進み後すざり此間に歌二句を唱ふ、終れば左半身になり右に押廻り南北自分の座に行き互に左
を出合ひ左体廻りし神前に向き拝す、此度は鈴弓矢扇舞出の時の如く持ち押廻り自分の座にて右半身に構へ
(唱「コノアヅサ弓ニ元筈ウラ筈ツルカケテ」」)にて左へ押廻り又自分の座にて左半身に構へ(唱え「この代人
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(P32)
のあくま払わんあくま払わん)にて右押廻り又自分の座にて右半身に(唱「所の為代の為のあずさ弓なり」)にて左
押廻り自分の座にて体廻して西注連ぎわに行き突上三度なし、左体廻り神前に向き拝し右半身に構へ寶渡
しを唱へて渡す拝して終り。

一、弓刄添
おやつ姫の命 つまづ姫の命
一、衣裳、素袍に、鉢巻は、両鬢にはさみたれを下げ刀を挿し右手に鈴を左手に扇かなめ外に持ち樂屋より
舞出す
一、舞方は襷の手迄は鞭と同様、それより襷を掛け西注連ぎわに至り神前に向きて座し刀を抜き匁を紙にて
拭き目釘を檢め前斜に置き袖を調べ拍手して刀を取り左膝を立て刄先を左手にて支へ左膝頭に持ち(太鼓ト
コトントロムコトントコトントロムコトン)にて立上り左体一廻りして押廻りに舞ひ先舞の掛聲(ハアーハッ)にて左体廻り
して順に舞行き、又掛聲に又舞帰り又掛聲にて西注連際に行き神前に向きて進みし時太鼓下し同時に後すざ
りして両足を踏み開き腰を割り体をそり、刃を七廻振り体をもどし神前に一足にて飛び、又後すざりして前同
様刀を振り体をもどし北東南共同様にし此度は北と南より同様になし、終れば体右一廻りして立てやや中央に
差出し左手は腰に附けて構へ、太鼓打替(トロムコトントントロムコトントロムコトントントロムコトン)にて掛聲(ハレワイサーノ
サ)に舞行き舞もどり、又の掛聲にて刀の柄を上に刀身鍔際刄を向ふに握り舞行きつつ刀の手の内にてすご
き上げ、舞行き舞もどり刄先迄すごき上げたる時掛聲にて右体廻りして西注連際に行き神前に一足にてとび
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(P33)
後すざりして前同様刀をふり、北東南共に同じくして前同様北南より中央に刀を差出して太鼓前同様に打替
輪舞し掛聲にて舞もどり刀身中央以上迄すごき上げ、左舞廻りの時掛聲と同時に太鼓を下し、前同様西注連
際に行き神前に一足にてとび後すざりして腰を割り刀を横に柄を左方へ又右方へ入れもどし数回し神前に
一足にてとび後すざり前同様入刀をなし四方共同様に割り北南より中央に前同様刀を差出し前同じ太鼓打替
舞行き舞もどり刀鍔際迄すごき上げたる時の掛聲にて太鼓を下し、刀柄に握り替え刄先上に右胸に附け西注
連際に行き神前に前同様にとび、後すざりし足を踏み開き腰を割り体をそり刀をはんたひに振りこれ二回し
て終わば刀先を左手に支へ右体廻りして神前向きて座し前斜に刀を置き拍手し刀さやに収め拝して終り。

一、本花
木花咲や姫の命 うすめの命 石凝姫の命 妻津姫の命
衣掌 素袍 烏帽子 右手鈴 左手榊枝持つ
西注連際に一同出で拝して三足進みしりぞきて座し鈴榊を前八文字に置き袖を調べ拝し榊鈴を両手に持ち
神颪しの花の手同じなれ共(ランジランジョウ及びワキガナは無し)四方割も神颪しと同様なれ共左中央なり
四方割終れば先舞は北の神前次は其西三番は南の西次は其東に向合て座す
膳に榊葉を入れ各々左手三本指にて支へ右に鈴を持ち太鼓六調子にて立上る時右体廻り先舞より歌を出し舞
廻り左中央をなし四方掛り歌にて西東より割り向へ舞行き右半身に歌と共にするがひ舞をなし歌終りに向へ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P34)
行き其儘膝頭にて座し歌の仲ばの切迄左の方へ鈴榊共かっこうよく引き戻し歌の切に左に半廻りして
向直り歌終り迄前同じの動作をなし立ち上り其まま自分の座にもどり「吹けば行く」の歌にて各々北南に進み前
同様の割方をなし輪舞し、左中央をして一列四方割をなす、終れば輪舞中央舞下す、歌終れば「八雲立つ」の歌に
て各々中央に向き横舞し歌終につき上げをなし左体廻り同時に太鼓下しつき上げして左体廻りして四方自分
の座に座して拝す。
其れより舞上げ二番先が先に鈴と膳にて前の舞と同じに舞ひ終れば神前に座し拝してしりぞく。
次は一番先ゼンを両手に三本の指にて支へ前同様の舞をなす、終れば神前に座しゼンを置き拍手拝して立上
り一同西注連際に行き神前に向き拝してしりぞく終り。

一、袖花
うづめの命 石凝姫の命 妻津姫の命 木花咲や姫の命
衣掌 持物 本花と同じ
五方舞迄本花と同じ、終れば太鼓(トンカコカッカコ)にて袖を引て大神神樂と同じ四方割をなし一列四方
迄終れば太鼓六調子にて輪舞左中央四方割一列四方割をなす、終れば「舞下す」「八雲立つ」各歌ひ本花の如く横舞つ
き上げをなし西注連際に座し拍手拝して終り。
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(P35)
一、五穀
うがのみたまの命 おふあなむちの命 おふみや姫の命 大田の命 うけもちの命
素袍の上にちわやを着面を被る、右手鈴左手に五穀の内一種宛持つ太鼓(トントコトントコトントントン)にて
樂屋より舞出で歌(天よりも五穀たばねて我来よー五穀主とは我をこそ云ふ)と外二句歌ひ神庭に輪舞三回
なし「舞下す」の歌にて北に二人南に三人向合に座し、持物を前八文字に置き袖を調べ拝して持物取持ち太鼓
(トンカコッカッカコ)にて立上り右にて左袖を引腰を少し折りて左足より舞始め輪舞して西より二人東より
三人四方割をなし、「吹けば行く」にて南北に行、前同様にして輪舞なし「舞下す」の歌にて元自分の座に座す、其時太鼓
下す盆に五穀を入れ左指三本にて支へ鈴も持ち前同じ四方割をなす、輪舞して元自分の座に座す其れより三
番舞五穀東にて舞上前同様にし次は一番盆を両手に支へ同じ舞をなし終れば盆の縁を持ち杉登の如く両袖
を巻たり、解きたりして四方割して神前に座し、盆を置き拍手拝す其時は外四人共拝して樂屋に入る終り。

一、岩潜り
たけみかづちの命 天津ひとつの命 たおきほいの命 猿田彦の命
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(P36)

襷を掛け寶冠を被り後鉢巻鈴と扇に刀を挿す太鼓、トコトントロムコトンにて樂屋より先舞舞出神
庭に入る同時にハーハーの掛聲に外廻り舞行舞戻り神庭一廻りして注連際に舞戻り、二番舞を連出て前の如
く神庭一廻りして、三番又次に四番舞迄連出て其れより東西南北にて掛聲にて舞戻りして四方割、二人は西
二人東注連際に行きハーハーにて向合ひ向へ舞行と太鼓、トロムコトントノトンにて掛聲ハレワイサーノサハ
ーにて扇要を左足後に引き、扇要を上に右足引き又左足を引き右足引て真向となり太鼓、トロムコトロムコトロムコ
トロムコにて向に行き、トントノトンにて左へ押へ又前の如く後戻りして扇手向に片膝に座し、立直り鈴を向に
同じく座し鼓手より歌「天よりも御花束ねて」と歌ひ舞手「我来たよー」と歌ふ、同時に鎮かに立上り鼓手「みは
なの主とは」と歌ひ、舞手「我をこそ云ふ」と唱へトントンの太鼓でとび上り左廻りし太鼓トコトントロムコ
トンにて左に舞廻り掛聲ハアハアにて右体廻り右へ舞廻り、掛聲にて舞行き舞戻り、舞行き南北より東西の
如く割輪舞行き戻りし西一列に前の如く割る、次は北方へ一列南方を割り此度は聲歌無く立上り五五歩行き右
体廻りして左へ押廻り、西注連際に後舞より順に座し拝して刀をぬき目釘等を調べ刀眞を吹き前斜に置き袖
を調べ拍手拝し刀束を右手に取り末刄先を左指にて支へ持ち左膝を立て太鼓トコトントロムコトンにて左
体廻り立上り刀右胸の所に附け立に持ち左手指にて左腰帯を支へ左廻りに舞行き、掛聲にて右体廻り順に舞
行き又聲にて左に舞廻り又右に舞廻り先舞二人西後舞二人は東注連際に行き東西を割る、向へ舞行たる時
太鼓下し小足にて後戻りし両足を踏開き腰を割り体を反り刀を日廻りに七回振り元の構へなり向へ一足にて
とび又後すざりして前の如く刀を振り元の構へなり、左足少し後に引き押廻り一回して南北より向へとび前
の如く割り、押廻り西に一列東方にとび後すざり刀を左廻りに三回振り、末刄先を左手に握り束を右手にゆ
るく持ち太鼓、トントコトロムコトンにて左足より立上り左手高く右手低く順に舞行き掛聲にて逆に舞行く
其時は右手高く左手低くす、舞行き舞戻り舞行きて先西より東に他人の刀の下に入行き潜りて舞戻り舞行き
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P37)
二番北より南に潜り三番東より四番南より北に潜る其時太鼓、トロブコトントノトンにて前の如く舞行き舞
戻り入り潜りして太鼓下し又入潜して元の座に座し拍手拝す、此度は一二三番舞三人にて前の如く入潜りし
て座しハク手拝し、次は二番三番にて二人返りをして座し拍手拝す、次は舞上げ一番舞がなす刀を両手に持
ちトコトントロムコトンの太鼓にて前四方割の如く割り刀を振り終れば座し拍手拝す次は四番舞にて舞上げ
神前に座し拍手拝し両手に刀束を逆に取り伊勢神樂の折敷の如くして立上り左半身に構へ右へ押廻り西より
順に杉登の登りの如く割り、終れば八方返りをなし神前に座しハク手拝し刃刄上にするがへ刀眞を両手の平
にて支へ持ち同じく折敷に立上り前の如く四方を割り八方返りをし神前に座し拍手拝して二刀共束を左手に
刄を向合せて持ち右に鈴を持ち鎮守の太鼓にて立上り輪舞し鎮守の如き四方割終りに西より神前に行き突上
三度なし右体廻りして座しハク手拝して終り。

一、大神
やぶさのはちろはいたか天神 みちのたんの命 五瀬命
衣裳、素袍にチワヤ、烏帽子 持物 鈴 榊
舞方五方の舞四方割大伊殿と同じく終れば先舞三本の大幣を左手に持ち神前にて唱教を唱ふ(別に記す)尻
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(P38)
の唱へは皆立上り共に唱へ終れば左体廻りして左半身に拝す、先舞より大幣一本宛渡し五方の太鼓にて幣立
に持ち其袖を鈴手にて撮り引き歌「天よりも」の時に左足少し左に先を上げて踏み元に戻し歌「御幣束ねて」にて
右足を右に少し先を上げて踏み元に戻し歌「我来たよー」に又左足を踏み元へ戻し輪に向へ行く時体左体廻り
して歌下の句に前の如くなし「四方をねんじて」の歌にて四方割に掛る其座に行き左体廻りして向合ひ歌下の句
にて幣を左右左に振りて拝し、歌「御幣立つ」にて始の如く足踏みして互に向の座に行き左体廻りして向合ひ御
幣を振り下の句に足踏みして自分の座に行き左体廻り「吹は行」の歌にて前の動作に南北に行き仝南北を割る
一列四方迄なし太鼓六調子にて大伊殿開き扇の如く四方割をなし、終れば西一列になり突上三度なし左体廻り
して座し幣を左右左に振り拝して終り。

一、日の前
天津小屋根の命 鈿女の命 猿田彦の命 思兼の命
衣掌 持物 大神の始めと同じ
大神宮の前にて座しハク手拝し太鼓六調子にて舞始め歌「榊とはいつの時日に植えそめて」にて左体廻り後向とな
り下の句を歌ひ右体廻り前向となり次の歌半句にて後向となり下の句を歌ひ又前向となり神庭三廻りして北南
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P39)

の座に行き中へ向き拝す、太鼓下す、其れより五方の舞をなし後は大神の舞と同じにて終り。

一、繰下し
天津小屋根の命 天のほおひの命 天のひわしみの命 天のむらくもの命
後鉢巻して鈴に榊を持ち外注連に向かひて五方の舞地固めの如くなし四方割をして外注連に向き一列に拝し先
舞、みどりの糸を四筋左手に取り唱教を唱へ(別に記す)其時注連口迄まひ出る、終れば其糸を一筋宛分て
やり太鼓六調子にて歌(永ぶし「注連引けば」)にて右足を少し右へ踏み左へ横舞二足右へ二足歌ひ終り迄糸
を手に巻きつつ向ふへ少し宛進み歌終れば「中央六部」の歌にて左体廻り元の所迄舞戻り、又「中央六部」の歌にて左
体廻り正面に向直り歌と共に一番二番糸を手に巻き向へ舞行き歌終りに中央の歌にて体廻り後に向き元に舞
戻り又中央の歌にて体廻し、向き直り、此度は三番四番舞ひ一二番舞の如くなし此度は一番舞向へ舞行く二
番三番は斜になる様に少し宛舞行き、中央の歌に体廻り舞戻り、又中央の歌にて体廻り正面に向き此度は四
番より向へ斜に舞行き、又元に舞戻り体廻り正面に向き舞下すの歌にて横まひなし「八雲立つ」の歌にてまひ終れ
ば右足少し後に引き、鈴を右高く糸の上に廻し行き拝す此二回其れより左体廻りし拝して此度は外注連の前
に行き八つ注連の前四つを取り右の横まひより終り迄舞て終り。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P40)

一、注連口
大力男の命
衣裳 チワヤ、面を被り
外注連の前にて入貴神の舞、四方割迄舞ひ、其れより日月を両手に持ち折敷して立上り、杉登の登の如く四
方割をして正面に向き座し日月を納め拝して終り。

一、雲下し
かんろみの命 思兼の命 手置ほ負の命 天津古屋根の命 天の太玉の命
衣裳 袴 鉢巻
榊を持ち五方の舞をなし其れより雲綱及び雲の注連を各取六調子にて歌「東方天の神の数は五万五千五百五
十五体の王の遊の正樂舞下す舞下す」にて舞行き、中央の歌にて舞戻りす。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P41)
次は「南方天の神の数は六万六千六百六十六体王の遊の正樂舞下す舞下す」、次は「西方天の神の数は七万七千七百
七十七体王の遊の正樂舞下す舞下す」、次は「北方天の神の数は八万八千八百八十八体王の遊の正樂舞下す舞下す」、次
は「中央天の神の数は九万九千九百九十九体王の遊の正樂舞下す舞下す」、「舞下す」の歌及び「八雲立つ」の歌を唄い突上
三度して終り以上。
高千穂岩戸神樂前編共に参拾参番舞方
以下に唱教及び云教歌を書す。
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(中表紙)
高千穂岩戸神樂歌
皇紀2598年
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(中表紙)
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(P42)
神樂歌
一、古の天の岩戸の神神樂 面白かりし末は目出たし
一、榊とは何時の時日に植えそめて 天の岩戸の口と定めし
一、青白のにぎてを枝に折りかけて 舞ふてぞ開く天の岩戸を
一、なのみして姿は見えぬ石と金 打ちだすものぞかぐつちの神
一、谷が八つ峰が九つ戸が一つ 鬼の住家はあららぎの里
一、吹けば行く吹かねば行かぬ叢雲の 風にまかせて身こそ安かれ
一、彼方の繁木か本を焼き 鎌のとか鎌で祓へば罪は残らじ
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(P43)
一、日向なる二神嶽の麓には 乳が岩屋に子種まします
一、日向なる逢初川の邊にこそ 宿世むすびの神はまします
一、日向なる高千穂峯の御七五三なわ 永きをかけて住める我が國
一、君が代の久しかる可きためしには かねてぞ植えし住吉の松
一、高山を通りて聞けば面白し いつもたえせぬ御神樂の音
一、御幣立つ諸葉の山に吾行けば 大子もそこに御幣とどまる
一、此のころはむすびこめたる神の意も 今日こそとける神の心は
一、山は雪水は氷となりはてて とける方より立つは白波
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(P44)
一、たちばなやおとのかわせにみそぎして 今ぞ清むる吾身なりけり
一、神の道千道百道其の中の 中なる道に神はまします
一、花は散る紅葉は落る倉掛の 位はいつも有明の月
一、三日月は何とて山端を急ぐらん 山より奥は住家ではなし
一、さよなかにあやの風こそ吹き来たれ 神風ならばしなやかに吹け
一、沖に浮くうつろの舟の見えたるは ゑびすの御前の御座にますらん
一、住吉の松に小鳥がすをかけて いかに小鳥が住みよかるらん
一、七五三引けばここも高天の原となる 集り給へ萬世の神
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(P45)
一、八雲立つ出雲八重がきつまごめに 八重がきつくる其八重がきを
一、高千穂の天の香久山榊葉を 其の日の七五三に掛けぬことなし
一、日向なる檍ヶ原の波間より あらわれ出し住吉の松
一、うれしさにわれはここにて舞ひ遊ぶ つま戸も開けてみすも降さず
一、千早降る神に幸ある時は 天地共にたっとかるらん
一、しめばしりうきはたぐものうきはえて うきしる水は高千穂の水
一、いさぎよきはまの廣瀬で身を清め 朝日に向ひて神をしょうぜん
一、高千穂の名は山田舎本村の とぼかないなや花のをちかた
一、高千穂の天の香久山榊葉を 神樂の注連に掛けて舞ふらん
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(中表紙)
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(中表紙)
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(P46)
高千穂神樂唱教(又ハ唱義)
御神屋始
一、なりたかやなりたかや、せいしづかなれ豊殿うじは上にはなりをしづめてきこせめせ、下にはせいをしづめ
て承はれ、たっともたっとかれやたっともたっとかれや
一、さればいにしえあめつち末わかれさる時まろかれたることとりごとしくぐもりてきざしをふくめしその
角あきらかなるものはたなびいて天となる、おもくして疑れるものは滞りて土となる、天地既になりた
る其の中に一つのものあり形あしかいのごとし、これ即ち神とあらわれまします、國常立命と申奉り給
ふなりやあ給ふなりやあ
一、さればこの時より事起り天神地神のあと続くなり、惣じて天津神七代におはし其御時天神七代の後
伊佐那岐、伊佐那美の命の御子四柱の御神素盞鳴命は天照大神へ天が下を譲り給ふ御時に姉の命をね
たみ給ひ、姉の命の神田たがやしたまふ時溝うめ樋放ちしき蒔串刺し生はぎ、さかはぎこしたくの罪を出
し既に大神を従へんとしたまふ御時大御神は早このことを聞こし召し天の岩戸に閉ぢこもらせ給へば大
日本はしん夜の闇となり給うものなりやものなりや
一、さればその御時より八百萬の神達は岩戸の口に集りて天に仰ぎ地に俯して歎き悲しみ給へども明かなる
御世とては更になし、その時太力男の命やすき御思召ありよと天の香久山に登りて榊七本根こぎにして
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(P47)
これを岩戸の口に植えつけ青幣白幣の御幣をささげてこれを神の體として、御神樂を舞ひ遊ばせ給ふものな
りやものなりや
一、さればその時より御神樂始まり今の世までも盛に行はれりやまとには祓を始め五塵の内かげすがもり
をもりと定めもりかえて家には鈴を下げ、庭をはき門にはをの垂る注連を下ろし谷に下りて水を揚げ峯
に登りて木を下ろし石の中より火を出ししょうじんの火を打ち替へ参らせ候て白金の寸のよのじを口に
含んで太鼓をならせ笛を吹きみさつの鈴を振り神をすずしめ奉り給うものなりやものなりや
一、此所東高く西さがりの御みやしきをば青龍の地とほめ奉る
一、南高く北さがりの御みやしきをば赤龍の地とほめ奉る
一、西高く東さがりの御みやしきをば白龍の地とほめ奉る
一、北高く南さがりの御みやしきをば黒龍の地とほめ奉る
一、四方さがりて中高き御神やしきをば黄龍の地とほめ奉り給うものなりやものなりや
一、次に注連の様子を拝み奉れば昔に天なる天は四十九天と申しその内北は三十三天その後抜ひたる天は
十七天白にた天黒にた天しき天志きかい天むしきかい天東領天もうりゆ天竹天志ざいまがた黒天とい
ふ天あり此天の中より丑寅に當りて池あり池の中に島あり、島の中に林あり林の中に七人の鬼神ましま
す、此鬼神のまつげを三筋ぬいて青龍院といふ鳥の羽ぐきを取りて三つぐりに合はせ打ちたるを御神前
の白金の御注連とは拝み給ふものなりやものなりや
一、次に麻の苧のももめのももたりを取りて二ぐりに合せ打ちたるを今日今夜氏の天神のこ金の御注連とは
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(P48)
拝み給ふものなりやものなりや
一、此所子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥に地をほめ拾弐の柱を立て並べ拾弐の柱は拾弐の神二つの桁は男神女神
四つの梁は四社の神六つのおさすは六柱の御神一つの棟の高ければ國常立の命立たせけしんましまし給
ふものなりやものなりや
一、白金黄金丸屋たるき六万一神のよしのえつりをはしらかし千把の萱を弐萬把と解きひろめ白金のつぎし
もと緑の絲を以て長しょふせんとぬいかため二つの火がさの高さは火の神月の神の御姿とは拝み給ふも
のなりやものなりや
一、次に東方に引きたる注連の様子を拝み奉れば春の景色にて木神くぐぬちの命立たせしんましませば青
き色にぞ拝み給ふものなりやものなりや
一、次に南方に引きたる注連の様子を拝み奉れば夏の景色にて火の神かぐつちの命立たせしんましませば赤き
色にぞ拝み給ふものなりやものなりや
一、次に西方に引きたる注連の様子を拝み奉れば秋の景色にて金神金山彦の命立たせしんましませば白き
色にぞ拝み給ふものなりやものなりや
一、次に北方に引きたる注連の様子を拝み奉れば冬の景色にて水神水はやめの命立たせしんましませば黒
き色にぞ拝み給ふものなりやものなりや
一、次に中央に引きたる注連の様子を拝み奉れば四季の土用の景色にて土神埴山姫の命立たせしんましま
せば黄なる色にぞ拝み給ふものなりやものなりや
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(P49)
継ぎ歌
一、此所よき森所と地をほめて社を建てて神を招ずる
一、此所西も東もらい拝し遊べば此所も神の御座舟
一、此所北も南もらい拝し遊べば此所も神の御座舟
一、神の父は何國にまします御へい森出雲に参り神を招ずる
一、神の母は出雲にまします御くまもつ何國に参りて神を招ずる
一、名龍によき鞍おかせ手綱かけ朝日に向って神を招ずる
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(P50)
一、此殿の新のだいか(大厦)はひはだ葺き黄金のたるきに綾の葺きほこ
一、此殿の御門の扉は金ばかり押せども引けども動かざるなり
一、此殿の御門のわきに葦うへて集る毎によしと呼ばれる
一、此殿の庭の中なる平め石天つ御神の腰かけの石
一、此殿の庭の折目は七折目八重の折目に黄金花咲く
一、此殿の戌亥の角に壷七つ八坪になれば殿も栄えん
一、此殿の東表に引く注連は入り来る神はこえてまします
一、神の道千道百道其の中の中なる道に神はまします
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(P51)
一、こう空より御花たばねて我きたよ御花の主とは我をこそいへ
一、こう空より御金たばねて我きたよみ金の主とは我をこそいへ
一、こう空よりみくま(神に奉る精米のこと)たばねて我来たよみくまの主とは我をこそいへ
一、こう空よりみかさ(寶の穀物のこと)たばねて我来たよみかさの主とは我をこそいへ
一、こう空よりみはし(箸のこと)たばねて我来たとみはしの主とは我をこそいへ
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(P52)
一、太殿の唱教
一、沖に浮くうつろの舟の見えたるは蛭子の御ぜの御座やますらん
一、抑太殿と申し奉るはこの所を高天原と定め東西南北に注連を引き五色の幣帛を飾り天孫降臨
共奉の三十二神天神地祇萬の神所の氏神勧請奉る御願成就の御注連とは拝み奉り給ふものな
りやものなりや
一、されば東方に引いたる注連の様子を拝み奉れば沖に立つ波平かに霞に千鳥の舞ひ遊ぶ青色は青
龍王春の景とも拝まれ給ふものなりやものなりや
一、南方に引いたる注連の様子を拝み奉れば四方の草木も照り渡り赤き色は赤龍王夏の景とも拝ま
れ給ふものなりやものなりや
一、西方に引いたる注連の様子を拝み奉れば千代の紅葉に白鳥の来て眺めて舞ひ遊ぶ白き色は白龍
王秋の景とも拝まれ給ふものなりやものなりや
一、北方に引いたる注連の様子を拝み奉れば岸打つ波に鵲のつがひ離れず舞ひ遊ぶ黒き色は黒龍王
冬の景とも拝まれ給ふものなりやものなりや
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(P53)
一、中央に引いたる金の注連を拝み奉れば科戸の風の吹き散らす落葉の黄なる色は黄龍王土用の景
とも拝まれ給ふものなりやものなりや
一、抑今日の御神樂に参りて拝み奉る當國の鎮守十社大明神三田井三社高千穂八十八社此の御所の
何々神社氏の天神仰ぎ願はくば千代の神主の頭に下りて吾太子の本尊遊びをし給へやし給へや

一、神下し唱教
一、さよなかに綾の風こそ吹き来たれ神風ならばしなやかに吹け
一、抑今日の御神屋に参りて拝み奉れば東西南北に注連を引き五色の幣帛を飾らせ給ひて天長地久
御願ひ成就の御注連とは拝まれ給ふものなれやものなれや
一、されば東西南北に飾らせ給ふ幣帛は伊勢の國しろこの里といふ所にてすき揚げたる紙を青赤白
黒黄に染め分け五色の幣帛を作りて掛け飾らせ給ふものなりやものなりや
一、さればかむろぎの命は御神屋を清めんが為橘の小戸に下らせ給ひて襷を掛け海に入り深き所に
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(P54)
至らせ給ひては底つつ男の命(底土男の命)を生ませ給ひ浅き所に至らせ給ひては上つつ男の
命(上土男の命)中央に至らせ給ひては中つつ男の命(
中土男の命)を生ませ給ふ此三柱の神
は御神屋を清めんが為塩を含みて御神屋を吹き廻らせ給ふものなりやものなりや
一、抑も今日の御神樂に参りて拝み奉る當國の鎮守十社大明神三田井三社高千穂八十八社この御所の
何々神社氏の天神仰ぎ願はくは千代の神主の頭に下りて吾太子の本尊遊びをし給へやし給へや


一、脇假名の歌
一、神道ひろむる高空より惡しきつるふせ神立てて其れにて御王下り給ふ
一、妙見社を拝むには位は高ふて中の間にこそ中の間にこそ下り給へ
一、天に音楽雲に打つ黄金の真砂御座として夫れにて御王下り給ふ
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(P55)
一、いにしへの天の岩戸の神々樂面白かりし末はめでたし
一、舞ひおろすなかのやしょうめん舞ひ下す今はしょうめんおさめまします
一、八雲立つ出雲八重垣妻ごめに八重垣造るその八重垣を

一、山森唱教
一、抑もこの山の大主と申し奉る大山祇の命は五萬八千年の齢を経させ給ひその間に五つ柱の御子
を生ませ給ふ先づ東方に立たせ給ふは青龍王の命南方に立たせ給ふは赤龍王の命西方に立たせ
給ふは白龍王の命北方に立たせ給ふは黄龍王の命と申し奉り給ふものなりやものなりや
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(P56)
一、されば此五つ柱の御子は此の山四里四方の中に居る鹿をせめ滅ぼし給ふ其中に七つ七聲半鳴く
鹿ありその鹿の皮を取りて黒金のつる輪にかけ麻の五色のしらべを以て木のうつろに張り立て
これを太鼓と名づけ給ふなりさればこれを鳴らすもの無くてはと彼の山の北の平なる榊を一本
申し下ろし一尺二寸に切り先の七寸は天神七代にかたどり給ひ餘り五寸を地神五代にかたどり
給ふものなりやものなりや
一、抑も此の御所の山の神の御うたづまの唱教これなり四方の柱の御幣を取りて神樂を舞ひ遊ばせ
給ふものなりやものなりや

一、柴引の歌
一、此の山は清ある山か山守りて山守するにわれ山に住む

一、伊勢神樂唱教
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(P57)
一、千早振神にさきはいなす時は天地ともにたっとかるらん

一、抑も天神伊佐那岐伊佐那美の命の御子に日の神月の神蛭子素盞鳴の命とて一女三男おはしまし第
一に日の神と申し奉るは秋津島の宗廟大日靈の命是なり、第二に月の神と申し奉るは月讀の命是
なり、第三に蛭子に蛭子の命と申し奉るは西の宮の御神是なり、第四に素盞鳴の命と申し奉るは出雲國
大社是なり、素盞鳴の命の曰はく父母の授け給ふ姉の天照大神には高天原しらしめ月讀の命には
青海原をしらしめ蛭子は三とせになれども足立たずして天の岩くす舟に乗せ風のまにまに放つ
て遂に摂州の海邊にあとを垂れ給ふ、我には葦原中州を給はる故今日本の地の主といふは我なり
然るに天照大神我國の主となり給ふこと不當なりと大和の國宇陀の郡うのの郷といふ所に至り矢
劍を作り天照大神を従へんとせし御時天照大神には早この事を聞召し素盞鳴の命をうらむともお
ろかと思召し天の岩窟戸奥深くとぢこもらせ給へば大日本は無明の闇となること三年三月なり、
八百萬の神達は岩窟戸の口に集り天に仰ぎ地に俯して歎き悲しみ給へども明らかなること更になし
其の時太力男の命は安き計ごとありよと天の香久山に登り榊を七本根こぎにして之を岩窟戸の口
に植え付け香久山の土を取り鏡玉を作らせ上つ枝には八阪瓊の勾玉を掛け下つ枝には八咫の鏡をか
け中つ枝には青幣帛、白幣帛を掛けこれを神の体として七五三の注連を引き既に三年三月御神樂
を舞ひ遊ばせ給へば天照大神には我を請ずる神のあるよと思召し岩窟戸の口を細戸に見そなはせ
給へば大日本龍月夜の如くなり給ふ其の時御言葉に面白しとの給へば今人間に至る迄面白しとは
申すなり其時天鈿女命は天照大神の御心をすずしめん為に日影の葛を襷に掛け笹の葉を手に持ち
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(P58)
て手を伸べ足を伸べ歌ひて舞ひ遊び給ふ斯の命の襷は禰宜神主の用ふる「ゆふたすき」の起りなり、
諸の神達吾有り丈の知慧を出し数多の神供を備へ中臣の遠つおや天津兒屋根の命幣帛を取りて舞ひ遊
ばせ給ふ、太力男の命は力世に優れ給ふ神なれば岩窟の戸を左右へ取りて投げさせ給へば山田原日向
の國憶ヶ原につき給ふ、其御時天の鈿女の命は天照大神の御手を取りて心すずやかに舞ひ出させ給へ
ば大日本は明らかに拝まれ給ふこととなれり、その御時天の兒屋根の命の御歌に
一、青にぎて白にぎてたぶさの枝を折りかけて舞へばぞ開く天の岩窟戸
一、榊とは何時の時日に植えそめて天の岩戸の口と定めし

太力の歌
一、あらーきたり大神殿何とて出させたまはらぬ
出させたまはらぬことならばいかにしんよのやみとても
戸がくし明神ましまして石の戸取てなげすつれ
其時日月さよかにおがまれ給ふものなりや
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(P59)
一、鈿女の命歌
一、東より出西の光のさよかにてしりくれなわのしるしなるらん
一、榊とはいつの時日に植えそめて天の岩戸の口と定めし

一、戸取の歌
一、あらきたり大神殿何とて出させたまはらぬ
出させ給はぬならばわれ八百餘神の力を出し
一方の戸を取てなげすつれば山田が原につきにけり
又一方の戸を取てなげすつれば
日向の國檍が原にぞつきにけり其時日月
さよかにおがまれ給ふものなりや

一、岩戸舞ひ開きの歌
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(P60)
一、天の戸を押わけ出る天の戸を月と日を諸手に持ちて舞ひ遊ぶ月にも勝れ宵も照らしゃる
一、日向なる逢初川のはたにこそ志ゆくせ結びの神ぞまします
一、日向なる二上岳の麓にはちちが岩屋に子だねまします
一、今日の氏のごきとうさを鹿の黄金の箱に納めまします
一、君が代の久しかるべく祈りして今は日月納めまします

一、寶渡の歌
一、このおおんたからはたれにゆづらんみかさやまたからをそろへてうぢにゆづらん
一、たから取君が袖は八重かさね八重の折目にこがね花さく
一、のどかなれなをのどかなれ池の水さらさらさらとうぢにゆづらん
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(P61)
地割神主荒神言教(△ハ荒神、○は神主)
○申奉る此御所に花の御神屋を飾り雲さん節を下し當國鎮守十社大明神三田井三社高千穂八拾八社拾六番
の氏の天神此所にかのすす屋の中の御間に祭り下し神樂ののつとを以て遊ばし申さんとつごふ祭る所に
夜にげげ敷祭り給ふはいかなる方にてましますか早や早やの御名乗り候へ
△それに及ばん、此御處に花の御神屋をかざり、當國鎮守十社大明神三田井三社高千穂八拾八社拾六番
の氏の天神彼のすす屋の中の御間に祭り申さんとつごふ祭る所に夜にげげ敷祭り給ふは我荒神が両眼をな
す時
○扨て其荒神殿にてましますか、昔には拾弐の歌ども聞き中頃七つの歌ども聞くなれば今當氏おもしろき
歌一首聞て荒神も受納なされ
△昔には拾弐の歌共聞き中頃七つの歌共聞くなれば今當氏おもしろき歌一首まつられよ、我荒神も聞て答
へん
○咲く花のしきをひらける瑠理の地にあをとみゑてふすは何者
△咲花のしきをひらける瑠理の地にあをんとみゑて伏は荒神
○山高く岩を厳しく咲く花も、鶯つめばてにはうすしむ
△山高く岩を厳しく咲く花も我荒神つまひで汝何者がつむ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P62)
○谷が八つ、峰が九つ、戸が一つ、鬼の住家やあららぎの里
△谷が八つ、峰が九つ、戸が一つ、我荒神がすまいでなんぢ何物が住む
○西吹けば都に来る梅の花、かく吹く里にあぞなとどめよ
△あわがらにあしかれ渡る神を田にみすふきわけてよしとよまれる
○松らがた、しばしがほどのたいなれや、つゆに都はするがなりけり
△松にふけ花にはつらき春風も、時には色にもまさりけるらん
○日向なる二神嶽の麓にて、父が磐屋に子だねまします
△ねき掛る、御鈴のこゑにかよふらん、猶ほ榮えますと國の神かな
○きじょふ両たんさんごさいへいさいわいと敬ひて申奉りこれより當りきたれる年號月日を申せば何年號
何拾何年何のゑ何の年さくひらひら月の御幣を申せば十月に餘りて十二月二月は日の数三百五十四かん
日也時のこんを申せば四千八百五十が四時なり此時に中にも生ずる月を申せば正月元日始に候ゑて何月
何日は、ゑとひがん吉たんじやうん三千成長神門ひらきて高きは大神、ひくきは小神、八百万の神たち
を此御所の何神社此御神屋の内に祭りおろし申さんとつごふ祭る所に、夜にげげしく祭り給ふを見奉れ
ば中天竺の人かとみるにもさもあらず、しはをよせさたんほふいんのすがたを祭り、髪の白き事は雪なんだの如し
したいには百三枚のいのをのーゑ、ますげのひげを下らせ、眼は日月の光りなりなを高けれ
ば鼻はほふらいの如く、口ごくそつは白劒ぎ四つ引つらぬいたるにも事ならず、かたのあたりに小松三
本榊七本うえつらぬいたるにも事ならず、むねには屏風の岩を三枚切りたんたんだるにもさもあらずすこし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(P63)
のこのぐみはあづさ弓七長張くぐんたるにも事ならず手足は京らんべくの大竹節四つ引つらぬいたるに
も事ならず早や早や物を仰せられ候やさなくば彼の神主がささげ奉御幣白を以注連より外にしんづしんづ
と祭りひぞりもうさん
△我荒神も聞つ聞つ能く聞つ、我荒神をおさへ汝何物ぞとはとうゑき者は覚へずや、我荒神をおさへ汝何
者ぞとは問ふ可き物七變化なす猿田彦の命には天大将軍やぶさの七郎並に石島天神彼等共荒神を押へ汝
何物ぞとは問へしなりされば神主は荒神の姿を見て驚はどうりなり、我荒神はしめん八ひろの姿にてし
ちうをいただき高くして眼は日月の光りなり、尚高ければ大日本を一目に見るなり、鼻はほうらいの如
くとをろくほうたいにてみみほがらにて大日本の事を只一度にきくなり四十ふくいのはぐき長くして
彼のよねを米とかむなり、したはせんすいのはぐき長くして五穀の米を味ふなり、され共寒國の寒き事
も覚えず又極熱の暑き事も知らずして命の長き事は数萬年かさねて尚長きなり、それ天を飛ぶ鳥はしん
ちうをふとして我等がけん属なり、地をはへる虫けらに至るまで皆我等がけん属なり、河の瀬を渡るい
さざめや波をくぐるろくつに至る迄くをんぐうとして皆我等がけん属なり、草木萬物に至る迄地上より
生ずる物は皆我等が支配よりかような地の上に居ながら神をすずしめ奉るに我を第一とうやまひ奉らざ
らんに依て斯の如く顕れ出多く神樂のわざわいとはなるなり、されば一家には一社宛荒神が森と定め
我を第一と敬ひ奉らば汝が願もみするなり、汝神主がゑぼし狩衣結綿襷俵に腰を掛けたるは事を知りて
掛けたるか又事をしらずに掛けたるか早や早やしめし給へ我荒神も聞てこたへん
○抑も彼の神主は天津兒屋根の神儀を傳へたり此御所を高天の原と定め五色の錦をかざり日本神國の神樂
ののつとを以て天神地神をすずしめ奉るに荒神殿には日本の地の主とはならせ給ふ、承はりて候か何と
て日本の地の主とはならせ給ふや、木火土金水の性は何が先に始り候か木が先に始り候か火が先に始り
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(P64)
候か土が先に始り候か金が先に始り候か水が先に始り候か日本海百人が先に始り候かいかなる事にてま
しますぞ、荒神殿九仔細有れば一句しめし給へや彼の神主も承り奉らん
△抑も荒神と云う性をしづめて承り天地陰陽別れざる時圓かれたる事鳥のごとし、くぐ森てきざしをふく
めり其角み明かなる物はたなびーてあめとなるをもくしてにごれる者は滞りて地となる、先あめ土しづ
まる其中に一つのものあり、形あしかいの如し即ち化して神と現れ是を國常立の命と云うなり、弐代國
狭槌の命陽神なり、木の徳を以て王たり百億萬年を保つなり、木の性定りて木神うびちみの命と變化を
なし、春三月をしらしめ給ふ三代目豊國の命と云ふ神なり、火の徳を以て王たり百億萬年を保つなり、
此時に火の性定りて火の神かぐつちの命と變化をなす、夏三月をしらしめ給ふ四代大戸道の命大戸邊の
命二神金の徳を以つて王たり、二百億萬年を保つなり、此時に金の性定まりて金神金山彦の命と變化を
なし、秋三月をしらしめ給ふ五代うびちにの命さびちにの命二神水の徳を以て王たり、弐百億萬年を保
つなり、此時に水の性定まりて水神水はめの命と變化をし、冬三月をしらしめ給ふ六代をもたるの命か
しこねの命二神土の徳を以て王たり、弐百億萬年を保つなり、此時土の性定まりて土神はに山姫の命と
變化をなし、四季の土用三年に一度の閏月をしらしめ給ふ七代伊弉諾伊弉諾美の命二萬三千四拾年を
保つなり、成より出来る神なる故に男神ばかりと現はれたり、後には神けんどう道に相交り給はり、出
来る神なる故に女神男神顕れたりされども今だみとのまくばいなし、此伊弉諾岐の命伊弉諾美の命より
始まりてみとのまくばいをし給ひて先に土をぞ産み給ふ、それより山河島に至る迄産み給ふ、それより
天が下の主たる物をうまんとて日神月弓の命ひるこの命すさのふの命彼の四神をうませ給ふ、日神と申
奉るは天照大神高天が原をしらしめ給ふ、月弓の命はあを海原をしらしめ給ふ蛭子の命は三歳になると
いへども足立ずして天のうつろ船に乗せて流し給ふ、すさのをの命はあし原の中津の國を給ふるゆへ今
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(P65)
日本の地の主とはなりたるぞなんぢ神主も仔細あらば一句しめし給へ我荒神も聞て答へん
○荒神を祭り納まる河の瀬にしばとり立て由とよばれる
△前河や瀬にふす石にこけはへて通る世迄も氏子榮る
○西東北と南に倉立て中の泉はたれがめすらん
△東西南北の倉なれば中の泉を受る荒神
○荒神殿にはまれにつき會まして候程に引出もの仕らん、綾千段錦千段白布千段黒布千段万毛の万引揃へ奉る
△我荒神が片榮にもさしたらんそもこの
○荒神は日本大千世界のために注連かざりにもさしたらん
△抑も此杖と申すは此處にては武運長久息災延命と突たる杖汝神主に譲る
○去りながら荒神殿には一本の杖とみゑますが杖には事はかぎたまはずや
△此荒神がつく杖は日本に五ヶ國の越中の立山加賀の白山などに立をいたる杖なれば五本七本に事かがず
○抑も此うとの矢と申ははづたかはゑんぶだごんと云門にては吉の天の札共なる枕本に立置はあくまに返共なる戌亥の角に弁財天と祝われよなんぢ神主に譲る
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(P66)
一、弓正護唱教
さやなかに綾の風こそ吹き来り神風ならばしなやかに吹け
抑も弓矢と申奉るは月弓の尊天まのひわしの尊より得させ給ふものなりや
其時大和の國うさのほとりに一本の木あり、此木の名をたらよの木と申すなり、寸に取りて七尺五寸先づ
七尺に七つの徳を取らせ給ふ、残りの五寸には五つの福を取らせ給ふものなりや
第一番に御不潔をはらふ、第二番に悪魔をはらふ、三番に用人のさん所の悪魔をはらふ、四番に諸人をんた
らい、五番に吾に御てきをなす共からのもふねんをはらふ、六番には所の為のあづさ弓なり、七番にこそ村
の為め所のあづさ弓なり、此あづさ弓に弭彌弦掛けて吾が代人の悪魔はらわんこれなり
抑も今日の御神樂に参りて

御注連
繰下しの唱教
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(P67)
抑も御注連と申すは高天の原を表し太力男の命天の香久山に登りまして注連の竹三本申下し日向の國高千穂
の峰に建させ給ひ、香久山の命は仝香久山に登りて榊七本申下し仝其前四方に四本向と左右に三本を建させ
給ひ、中央の竹に二つのうきわをぬかせ給ふは天と地を表し、上のうきわに青の御幣三十三本を挿し、天の三
十三天を表し、下のうきわに赤の御幣二十八本をさし地は二十八宿を表し給ふものなり、両のうきわに白幣
十二本宛二十四本を挿し天地の神にしょじ給ふものなり、あや布三つの吹流しは天の浮雲になぞらへ銭を掛
けたるは六萬一神の星をしょじみどりの糸を引き扇を附け、日月をかざりしは日神月神をしょじ棚を附けた
るは八百萬の神等をしょじ、俵に三本の御幣を挿したるは中を天照大神、左に八幡大神、右に春日大神をし
ょじ奉るものなり、足元四方に八本の御幣は地神五代十二俵の俵は十二月の十二神をしょじ申し奉るものな
り、八方に下したる八つの注連は病気さいなん悪事の難をのがらせ寿命を延し奉るものなりや
千早古天津兒屋根のしんぎょう傳へる御世ぞ久しかるらん
注連引けば此所も高天の原となる集り給へ天地の神
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(P68)
柴荒神並に神主言教
神主云教△印 荒神云教○印
○御神屋に怪しき物の見へたるは早く名乗れや神と定めん
△御神屋に怪しき物の見へたるは早く名乗りて我荒神が森と定めん
○榊とは神の木とこそ聞きつるがなどかにこれまでいりし榊葉
△神とは皆我荒神が木とこそ聞きつるがなどかこれまでいりし榊葉
○拾六の玉の内なる姫君を御簾吹分けて誰やめすらん
△拾六の玉の内なる姫君を御簾吹分けて我荒神が物と定めん
○ちしやの氏ちしやの氏にはたかこめて金の鎖りでつなぎとどめん
△ちしやの氏ちしやの氏にたかこめて金の鎖りをおとりはかれん
○すごろくの拾五の石に立合て門をまげしにさいの論
△しらずしてうてあいにけるすごろくの我まけん可く其ゆるせきみうつものがたりせん
○さもそらやからうすよいのゆめさめていとどこいしき人のをもかげ
△八角の御殿の柱しらずして我人しらでしる物はなし
○打とけてよこそねられぬ山里の松吹く風にをどろかさるる
△打ちとけてよこそねられぬとはいかでのたもうぞよねればこそ松吹風におどろかされる
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(P69)
○山は雪、水は氷となりはててとくる方より立つは白波
△ 仝
○月は月、日は日にてりてあかるく女がく男がく二つなりけり
△三日月は何とて山ばを急ぐらん山より奥はすみかではなし
○おきよ君、ゆめみるまにぞよをばねる槇の板戸に朝日さすまで
△光なす槇の板戸に朝日さす迄よういね我荒神しへいなるらん
○皆神は御鈴の聲におどろひてあらゆる神とおこしがたなし
△皆神は御鈴のこゑにおどろける我荒神を打おろかすはつづみ太鼓
○抑も御幣と申奉るは日月星の三光之なり、これよりいざ我もうきたちて汝と物語りせん
△抑も天神七代地神五代と申奉る、先づ天神七代と申奉るは
國常立の命 國さつちの命 豊國の命 おもたるの命 かしこねの命 いざなぎの命
いざなみの命
是迄天神と申奉る、地神五代と奉るは天照しまします
おーひるめの命 まさかちかちはやしおまのおしおにの命 天津彦ほふににぎの命
天津彦ほふでみの命 彦なぎさたけうがや葺合ずの命
是迄天神七代地神五代と申奉る、依てしょじんくわんしょの御幣と申奉る、荒神殿も仔細あらば早々おふ
せ候やさなくば此神主が捧げ奉る御幣白を以て注連より外にしんづしんづと祭りひそけ申さん
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(P70)
○抑も七つの木の葉と云ふをせいをしづめて承はるに、天地未だ分れず分れざる時まろかれたる事鳥
の如し、くぐもりてきざしを含み明かなる物はたなびーて天となるおもしてのこれなる物は土となる、天
地しづまりて其中に一つの物有是即ち神なり、國常立の命と云ふなり、日本海百の人の始めは此時より
起れり、天神地神人の後は續くなり第二番の此葉をば國さつちの命と云ふなり、此時木精定まりて木神
くぐぬちの命とへんくわをなす、春三月をしらしめ給ふ、第三番の此葉をば、豊國の命と云ふなり此時
に火の精定まりて火の神かぐつちの命とへんくわをなす、夏三月としらしめ給ふ第四番の此葉をほうび
ちみの命さびちの命と云ふなり、此時金の精定まりて金神金山彦の命とへんくわをなす、秋三月をし
らしめ給ふ、第五番の木の葉をばおふとのちの命おふとのべの命と云ふなり、此時水の精定まりて水
神水はめの命と変化をなす、冬三月をしらしめ給ふ、第六番の木葉をば、おもたるの命かしこねの命と
云ふなり、此時土の精定まりて土神はにやまひめの命と変化をなす、四季の土用三年に一度の閏月をし
らしめ給ふ、第七番の木の葉をば伊弉諾岐の命伊弉諾美の命と云ふなり、此二柱の神迄は今たみとのま
くわいとてなし此二柱の神よりみとのまくわいし給ひて先に土をうみ給ふ、山河草木大八島の國をうみ
給ふ、それより天が下の主たる者をうまんとて日神月神ひるこすさのふの命とて彼の四神をうみ給ふ日
神とはおふひるめの命なり、月神とは月弓の命是なり、月弓の命には青海原をしらしめ給ふ、ひるこの
命は三年になれ共足立ずして天のうつろの舟に乗せすて流し給ふ、すさのふの命にねの國そこの國あし
原中津の國を給はる故日本の地の主とはなり給ふ、汝神主しさい有らば早くしめされよ我荒神も聞て答
へん
△荒神を祭り納まる川の瀬に白鳥立ちて由と呼ばれる
○前川や瀬にふす石にこけはへて通る世迄も代は榮へる
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(P71)
△西東、北と南に倉建て、中の泉はたれにめすらん
○東西南北の倉なれば、中の泉を受くる荒神
△住吉の松に小鳥が巣を掛けて、如何に小鳥が住吉の松
○住吉の松に小鳥が巣を掛けて、如何に小鳥が住み善かるらん
                              以上
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(P72)
神樂保存會役員
総務 大賀七郎
會長 戸高市三郎
副會長 田崎宇權
理事 仝人
三田井支會長 甲斐市作
仝副會長 花田伊三郎
押方山附芝原支會長 甲斐米治
仝副會長 上杉平八郎
押方五ヶ村支會長 佐藤由三郎
仝副會長 佐藤秀義
向山支會長 橋本幾太郎
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(P73)
仝副會長 甲斐竹四郎
評議員三田井 興梠喜代三郎
評議員三田井 戸高竹四郎
評議員三田井 今村両四郎
評議員三田井 藤高徳市
評議員押方本組 甲斐常四郎
評議員五ヶ村 後藤雅市
評議員芝原 興梠隆太郎
評議員向山 飯干仁之太
評議員黒仁田 甲斐源吾
評議員秋元 甲斐萬作
顧問
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(P74)
今村初藏
尾形左一郎
佐藤五十七
坂本作太郎
甲斐重宣
佐藤満男
押方豊光
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(P75)
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(奥付)
昭和十三年五月十五日 印刷
昭和十三年五月三十日 発行
(非賣品)
著作兼
發行者 宮崎県縣西臼杵郡高千穂町三田井八一二
     高千穂岩戸神樂保存會
    宮崎県縣西臼杵郡高千穂町三田井八一二
 代表者 戸高市三郎
    宮崎県縣西臼杵郡高千穂町三田井二六一三
     甲斐市作
印刷者 宮崎県縣西臼杵郡高千穂町三田井二五七〇
     飯干盛重
印刷所 宮崎県縣西臼杵郡高千穂町三田井二五七〇
     盛文堂印刷所
發行所  高千穂岩戸神樂保存會
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(持ち主署名)
佐藤實太郎所有 印
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(裏表紙裏面)
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(裏表紙)
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